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1-19 徳の里 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

19.徳(とく)の里
「それならば、陸へ行きましょう。島々にはどこに水軍が潜んでいてもおかしくない。陸(おか)の里は、一度や二度は水軍に襲われたところばかり。我らが立ち上がった事を知り、援軍となってくれるものもいるに違いありません。」
カケルとタマソの考えを聞いて、ギョクも賛同した。
「一度、陶(すえ)に戻り、タモツ様たちの力も借りてはいかがでしょう。」
マサが切り出した。
「おそらく、この船で里へ近づけば、皆、水軍と思い警戒するでしょう。違うと判っても、水軍を成敗する等信じてはくれぬでしょう。ですが、タモツ様たちは我らとともに水軍を成敗した。そのことを皆に伝えれば、勇気付けられるに違いありません。」
マサの提案は、皆を説得するに充分だった。
船は、上の島の西へ抜けて、再び「陶の里」を目指した。
「黒竜」が浜辺に姿を見せたことに気付いた陶の里の見張りが鉦を叩き始める。大船の手入れをしていたタモツたちも船に気付いて出迎えた。
タマソは、タモツたちに策を話した。タモツたちも、里を守るだけでは何も変わらぬ、せっかく大船があるのだから水軍を成敗したいと申し出てくれた。
「大船と黒竜は、海岸沿いを東へ進めて下さい。我らは、陸から東へ向かい、一つ一つの里を周り、説得していきます。漁師たちを援軍につけられれば、きっと水軍と立ち向かうほどの力になるはずです。・・・そう、上の島の北に、岩村という里がございます。そこで落ち合いましょう。」
「私も、タモツ様とともに参りましょう。」
カケルが申し出た。
「オオ、それは心強い。」
すぐに、陶の里を出発する事にした。大船と黒竜には、タマソたちが分かれて乗り込み、東へ進めた。カケルとアスカは、タモツたちとともに、山陽道を東へ向かった。

陶の里から、佐波川を越え、幾つか峠を超えると、大きな入り江を持った里に着いた。
「あそこは、徳の里と呼んでおります。入り江も大きく、田畑も広がり、かつては豊かな里でした。ですが、我ら同様、水軍が度々襲い、里の者も半分ほどになっております。」
タモツは、峠から里を眺めて、カケルたちに説明した。徳の里へは、一足先に、陶の里の若者が伝令役として向かっていて、里に近づくと、数人の若者が、タモツたちを迎えてくれた。
徳の里には、高台の森の中に、深い濠と強固な柵を巡らせた砦が築かれていた。
「タモツ様、お久しぶりです。皆、無事に居られましたか?」
豊かな黒髭をたくわえた、里の頭領、ミツルが一行を迎えた。ミツルは、一行を館へ案内した。
「最近は、水軍も無闇にはここを襲うことはなくなりました。」
館は、砦の先端にあり、海を見下ろせる場所にあって、ミツルは海を眺めながらそう言った。
「これほどの砦、よく築かれたものじゃ。・・」
タモツが言うと、ミツルは少し悲しげな表情を浮かべて答えた。
「皆、必死でした。米や魚はいくら奪われても構わないが・・里の者の命だけは守らねば成りません。みな必死出、この砦を作りました。おかげで、水軍に襲われても大した事はありません。」
カケルは、その言葉の中には、おそらく、幾たびか襲われ命を落とした者たちへの、悼みの気持ちが溢れているように感じていた。
「そちらの若者はどなたでしょう?」
ミツルがタモツに訊いた。
「このお方は、カケル様。そして、アスカ様でございます。遠く、九重より参られました。」
「なんと・・九重からこの地まで参られたとは・・九重では、邪馬台国が再興されたと聞いたが・・」
カケルとアスカは、手を着いて深く挨拶をした。
「はい、葦野の里の王を倒し、邪馬台国の王族の血を継ぐ、伊津姫様が王となり、再び、安らかな国造りを進めております。我らも、阿蘇や隼人、不知火の一族とともに戦いました。皆の力を合わせ、新しい国を作ったのです。」
カケルが頭を下げたまま、話をした。
「それは頼もしい事じゃ・・・だが、そのお方が何故この地へ参られた?」
「わが里には、アスカケという掟があります。己の生きる意味を問う旅をするのです。その途中、赤間の関にて、水軍と戦うお方をお助けした事が縁にて、こうしてここに参りました。」
タモツは、カケルに続けて話をした。
「このお方たちは、先日、我らの里が水軍に襲われた時、アナトの王とともに、兵を倒し、お救い下さったお方なのです。」
「ほう・・それは頼もしいお方じゃ。・・じゃが、今、アナトの王と言われたようだが・・。」
ミツルは訝しげな表情でタモツに尋ねた。
「はい。大船にて陶の里にまいられました。」
「しかし、アナトの王は、我ら民を見捨てた者ですぞ。そんな者に何が出来ましょう。・・」
「いや、先代の王は、譲位され、今は我が里でお生まれになったタマソ様が王となり、大船を持ち、水軍成敗に出られているのです。」
「水軍成敗?それは無理でしょう。水軍の力を見くびってはならぬということは、タモツ様とて充分ご存知のはず。・・・だからこそ我らも、この狭い砦に潜むように暮らしているのです。」
「我ら陶の者たちも、水軍を退ける事などできぬと思っておりました。ですが、カケル様たちは見事にやってのけられた。だからこそ、こうしてここへ参ったのです。是非、我らに力をお貸しくだされ。」
タモツはミツルを説得するため、陶の里での戦いの様子を詳しく話して聞かせた。ミツルは、それを聞いても、まだ納得できない様子だった。
1-1-19入り江.jpg
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