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1-20 赤龍 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

20.赤龍
徳の里に着いたのはもう日暮れ近く、その日は、砦で休む事になった。
「やはり、援軍を得るのは容易い事ではありませんね。」
囲炉裏端に座り、日の加減を見ながら、タモツはカケルに言う。
「ええ・・おそらく、どこの里も水軍に酷い目に遭っているのでしょう。だからこそ、水軍を倒し、平和な里を作らねばなりません。・・九重でも、強大な力を持つ王を皆の力を合わせて倒すことは出来ました。きっと、できます。」
「ええ・・」
翌朝、里の様子を見回るというミツルに付いて、カケルやタモツたちも里を回った。なだらかな丘から浜にかけて、田畑が広がり、豊かな川の流れもあった。浜辺には漁をする小舟もたくさん並んでいる。浜近くに来ると、若者が走ってきた。
「赤龍が現れました!」
若者が指差す沖に、朱塗りの船が見える。
「もう現れたのか・・・まだ、支度はできていないのだが・・」
ミツルは溜息をつくように言った。
「あれは、屋代の水軍の船ですね。」
カケルが問うと、悲しげな表情でミツルは首を縦に振った。
「戦支度を始めますか?」
タモツが問うと、ミツルは、浜に立つ小屋を指差しながら言った。
「いや、あの小屋に、米や魚を運び込むのです。奴らは、食糧を手に入れたいだけです。・・もちろん、以前は、我らも抗っておりましたが・・その結果、多くの命を奪われました。そして、いつからか、食糧を小屋に置き、奴らに奪わせる事にしました。それで、里の者は危害を受けずに済みますから。」
ミツルはそういうと、若者に指図して、砦から米や干物などを運ばせるよう指図した。
「精魂込めて作ったものをただ奪われる・・それで良いのですか?」
アスカが、運ばれる荷物を見て、改めてミツルに聞いた。
「命があれば、また作れます。」
その答えに、タモツが訊いた。
「なんと理不尽な事だ。ミツル様、我らとともに水軍を倒しましょう。そして、再び、強きアナトの国を作りましょう。」
「いや・・われらはこれで良いのです。それに、アナトの王が水軍を倒したとしても、同じ事です。昔、アナトの王は、我らの里から米や魚、人までも奪って行きました。水軍も王も我らにとっては同じものです。そうでしょう、タモツ様!」
ミツルは、悔しげな表情を浮かべながら、タモツに返した。タモツもそれ以上、何も言えなかった。カケルは徐々に近づいてくる朱塗りの船をじっと睨みつけていた。
ミツルたちとともに砦に引き揚げる途中、カケルはタモツに訊いた。
「我らの大船は今どのあたりでしょう?」
「それほど遠くではないはずです。潮の加減次第ですが、岬の西側辺りにいるはずです。」
「そうですか・・・ならば・・・アスカ、頼みがある。岬の先へ行き、狼煙を上げてくれ。」
カケルは、陶の里でタマソたちと別れる時、合図を決めていたのだ。訪れた先で、大船を呼びたければ狼煙を上げる。大船が近くに居ればすぐに駆けつける事にしていた。
アスカには、カケルが赤龍と戦うつもりなのだとわかった。
「カケル様、ここで事を起こすと、里の者にも危害が及ぶやも知れませぬ。」
タモツは心配顔で言った。カケルは、承知の上でこう言った。
「きっと、水軍は油断しています。それを利用して、船の中に忍び込みます。船内にはどこかの里から浚われてきて、奴隷になった者達がいるはず。その者達を味方につけます。」
「しかし・・・。」タモツは難色を示した。
「大丈夫です。奴らが荷物を運び込むのに乗じて忍び込みます。・・ミツル様には、しばらく、内緒にしておきましょう。アスカ、大船が見えたら狼煙を上げるのだ。私もその合図で動くことにする。タモツ様も、狼煙を合図に、ミツル様を今一度説得してください。」
「決して、無茶なさらぬようにしてくださいね。」
アスカは心配そうにカケルに言った。
砦の手前の森に入るところで、カケルとアスカはタモツたちと別れた。
アスカは、まっすぐ西のはずれにある岬を目指した。途中、畑から砦に引き揚げていこうとする里の若者に、岬までの道を尋ねた。
「岬まで行くのか?それなら・・あの松林の横を通って・・それから・・どうだっけ?」
若者は、指差しながら道を教えようとしたが上手く説明できず、岬まで先導すると言ってくれた。細い山道を登りながら、若者はアスカに尋ねる。
「昨日、陶の里の者と一緒に来たんだろ?名は?」
「アスカです。」
「俺は、トモヒコ。父様は、頭領だ。この里に、何の用事だ?」
アスカは、水軍を倒す為に援軍を求めている事をトモヒコに告げた。
「水軍を倒すのか・・・だが、頭領は合力しないだろうな。・・我らも何度も頭領に、戦う道を選ぶべきだと進言してきたが、拒まれたからな。・・爺様、いや先の頭領は、水軍と勇敢に戦い命を落とした。母様もその時殺されたのだ。他にも多くの命が奪われた。だから、頭領は抗う事を止めたのだ。」
タモツ達の説得にも関わらず、ミツルが頑なに拒否する意味が、アスカにもようやく理解できた。

1-1-20山道.jpg
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