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1-21 狼煙 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

21.戦いの狼煙
カケルは、タモツたちと別れた後、荷物を運び込む里の者の中に紛れ、浜にある小屋に向かった。腰の剣や弓は、筵に包み実を運ぶ不利をして、小屋の中に入り込み、米や肴が積み上げられた中に身を隠した。
沖に現れた船「赤龍」は、徳の浜辺に近づいてくる。浜には丸太を組んだ桟橋が設えられていて、「赤龍」はそこに横付けされた。しばらくすると、船から縄梯子が下ろされ、数人の男が桟橋に降りた。腰に剣、鎧を身に纏っており、一目で兵士だとわかった。男たちは、桟橋からしばらくあたりを見回し、里の様子を探った後、船に向かって叫んだ。
「頭(かしら)!やっぱり、ここは臆病者の里のようですぜ。」
蔑むような言い方で、船の頭を呼んだ。その声に応える様に、船胴の扉が開いて、大男が姿を現した。先ほどの兵より頭一つ分大きく、腕も足も太い。長い髪を一つに束ね、朱の服に身を包んでいる。腰には、人の背丈ほどある大剣を付けている。その男が桟橋を歩くと、ぎしぎしと歪む音が響く。
「ふん、ここはいつ来てもつまらぬ所だ!たまには我らにたてついて来ぬかのう。そろそろ、真っ赤な血の色を拝みたいものだが。」
そう言うと、腰の剣を抜き、高く掲げた。そして、
「おい、いつものように小屋へ行け!さっさと運べ。こんなところに長居は無用だ!」
そういうと、再び、船の中へ入って行った。
船の中から、ぼろぼろの衣服を纏い、やせ細った男達が十人ほど降りてきた。どこかの里で捕まり、奴隷として遣われているのだろう。誰もが俯き、空ろな目をしている。覗いた手足には、あちこちに痣や傷跡もある。その男たちは、先ほどの兵士に小突かれながら、浜にある小屋に入り、徳の里の者たちが運んだ米や魚などを次々に運び出しては、船に運び入れる。
見張りの兵士は、運び終わるまで、桟橋に座り、時々、奴隷達にちょっかいを出しながら、なにやら談笑を始めていた。
奴隷の若い男が、小屋の墨にある筵袋を持ち上げ、あっと驚いた。
そこにカケルが居た。カケルは飛び出し、その男の口を塞ぐ。そして、耳元でそっと言った。
「私はカケル。屋代の水軍を倒すために、潜んでいたのだ。何とか船に潜り込みたい。協力してくれぬか?」
カケルの言葉に、最初、男は驚いたままじっとカケルの顔を見た。水軍を倒すなど正気の沙汰ではないと思った。だが、カケルの真剣な表情をみて、頷いた。
男は、口を塞いだカケルの手を外すと、小さな声で言った。
「この筵袋に隠れてください。我らが船まで運び込みます。」
カケルは、男の目を見て頷くと、静かに袋に身を潜めた。
この若い男は、もう一人、男を呼び、カケルの潜む袋を持ち上げ、小屋から出ると、そのまま桟橋から船へ向かおうとした。
その時、桟橋に座っていた兵士の一人が、声を掛けた。
「やけに重そうに運ぶなあ、一体何だ?」
若い男はどきりとした。すると、もう一人の男が事情をわかっていて、さらりと答えた。
「鹿の肉のようです。余りの大物なので、二人で運んでます。」
「ほう、鹿肉か。ちょっと見せてみろ!」
そう言って、立ち上がり、筵袋に手をかけようとした。と同時に、他の奴隷が桟橋で躓いて、運んで来た魚の干物をぶちまけてしまった。
「こらっ!何をしてるんだ、のろま野郎!」
兵士は、ぶちまけた干物を蹴り散らして、転んだ奴隷をなじった。その隙に、カケルの潜む筵袋をさっさと船蔵へ運び込む事ができた。
船蔵に運ばれた荷物の隅で、若者は筵袋を開いた。中から、カケルが顔を出す。
「助かりました。」
カケルは辺りを見回した。
「大丈夫です。ここは船蔵。この上には供に捕まっている仲間達が居ります。兵が来ればすぐにわかります。」
「そうですか・・・すみません。危ない真似をさせてしまって・・。」
「いえ、良いんです。我らも機会を伺っておりましたから・・ああ、私は、タカヒコ。熊毛の里の者です。我が里は、長い間、水軍と戦っております。私は半年ほど前に、水軍との戦で捕まってしまって、仲間たちと供にこの船で奴隷として遣われているのです。」
若者は、真っ直ぐな視線でカケルを見つめた。
「やはり・・そうですか・・・熊毛の里とは?」
「ここより更に東。古くは、アナト国の東の守りの役目をしております。水軍が現れてからは、常に、戦の日々なのです。・・・水軍を倒す言われたが・・何か策が?」
カケルは、赤間や陶での出来事から、沖に居る大船と黒龍の事を話した。
熊毛の里、タカヒコはカケルの話を聞きながら、じっと考えていた。そして
「判りました。我らも機会を伺ってきました。兵士達など大したことはありません。武器さえ奪ってしまえば、我らのほうが数が多い。ただ・・頭目だけは・・身丈も大きく剛力で、何人か束にかかっても敵わぬほどの猛者です。頭目さえ抑えられれば、怖れる事は無いのです。」
「では、私が頭目の相手に鳴りましょう。頭目は何処に?」
「おそらく、船の帆柱に持たれて座っているはずです。」
「わかりました。岬の先から上がる、二度目の狼煙が合図です。」
「承知しました。」
タカヒコはそう言うと、階上へ上がって行った。
カケルは、船蔵を出て、一旦船尾へ向かった。幸い、兵士達は辺りには居なかった。

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