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1-22 反乱 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

22.反乱
アスカとトモヒコは、ようやく岬の先端に辿りついた。眼下には光る海が広がっている。アスカは、目を凝らして大船を探した。
「おい、あれは?」
トモヒコが指さした。遠くばかりを探していたアスカは、すぐ足元の海岸に停泊している大船と黒龍に気付かなかった。
「あれが、アナトの王の船なのか?」
「狼煙の支度を・・・。」
アスカは、木の葉や小枝を集め始めた。
「ここからじゃダメだ。下へ降りよう。この先に良い場所がある。」
トモヒコは藪の中を真っ直ぐに海のほうへ降りていく。アスカも着いていくと、石垣が組み合わさった場所に着いた。
「ここは、大昔、海の見張り台があったところだそうだ。ほら、その先。」
タカヒコが指さした先には、足元に名無が打ち寄せる突堤のような場所が作られていた。
「あそこからなら、船にも里にも良く見えるだろう。さあ、行こう。」
タカヒコの言うとおり、突堤のような場所に出ると、停泊している大船も、里の浜にいる「赤龍」も良く見えた。タカヒコは木の葉や小枝を集め、突堤の隅にある小さな釜戸のような物に入れ、火を起こした。白い煙りが立ち昇った。

大船の帆柱の天辺には、カズが居た。大船は、カケルやタモツたちが陸路で東へ向かった後、陶の浜を出たのだが、風が悪く、しばらく進めず、ようやくこの辺りまでやってこれたのだった。そして、この浦で風を待っていたのだった。
「おや?あれは・・・」
カズは岬の先端から立ち昇る白い煙に目を凝らした。さほど離れた場所ではなく、人影も判った。
「タマソ様、岬の先から煙があがっております。」
帆柱の上からそう叫ぶと、下に居たタマソやサカも目を凝らした。
「よし、少し船を進め、岬に近づけよう。」
船はゆっくりと岬へ向かう。後ろに居た黒龍は、大船に青旗が掲げられたのを見て、後を付いてきた。離れた船同士は、旗を掲げて意思を伝える事ができる。
大船がゆっくりとアスカたちの居る岬に近づいてきた。
「やってきたわ。・・・ならば、これ。」
アスカは懐から、布を一枚取り出した。そして、狼煙火の中に放り込んだ。布が燃え上がると、一気に赤い色の煙が立ち昇った。
「赤い狼煙、あれはアスカだ。カケルからの知らせだ。戦の支度をして、次の浜へ急ぐぞ!」
大船にいたタマソは、狼煙の煙で、カケルが何か起こそうとしている事が判った。大船が岬を回りこんだ時、帆柱の上のカズが再び叫んだ。
「浜に、赤い船が泊まっているぞ!」
すると、船の兵達が「赤龍だ!」と誰ともなく叫んだ。
「よし、戦支度だ。良いな、我らは水軍を倒し、この国に安寧をもたらすためにここに居る。命を懸けて、戦おうぞ!」
タマソが号令を掛けた。一気に大船は速度を上げた。後ろを走っていた黒龍のギョクも事態を理解した。そして、速度に勝る黒龍は、大船を抜き前に出た。
「ちゃんと伝わったようね。・・ならば、今一度、狼煙を。」
一度、煙を切った後、アスカは再び狼煙を上げた。
今度は、赤竜に潜んでいるカケルへの合図であった。
赤龍の中では、トモヒコが仲間たちに、反乱を起こす相談を纏めていた。空ろな目をしていた男たちは、トモヒコの話を聞き、一気に活気を取り戻した。そして、予てから隠し持ってきた小刀や先端に石を結んだだけの棒などをそっと手にして様子を伺った。

「よおし!荷物も積み込んだし、そろそろ出立じゃ。さあ、お前たち、漕ぎだせ!」
帆柱に持たれ胡坐をかいたまま、剛力の頭目が号令を掛けた。
兵が数人、奴隷の漕ぎ手がいる部屋へ入ってきて、鞭をたたき、号令を掛ける。
「ようし、漕ぎだせい!」
仕方なく男たちは櫂を手にして、ゆっくりと漕ぎ始めたが、息が揃わず、船はなかなか進みださない。
「何をやってるんだ!ほら、しっかり漕がねば、こうなるぞ!」
兵の一人が、奴隷に向け鞭を叩いた。男たちは、ぐっと俯いて櫂を握り締める。
「狼煙だ!」
小窓から外の様子を見ていたトモヒコが叫んだ。その声で男たちに火がついた。櫂を投げ出し、足元に忍ばせていた小刀や棒を手にした。そして、部屋に居た兵を一気に襲った。
「よし、いよいよだ。みんな、覚悟は良いな。この機に一気に奴らをやっつけよう!」
トモヒコは、男たちに声を掛けると、男たちは一気に漕ぎ手の部屋を飛び出した。
「おい、どうした?船が動かぬではないか?」
頭目が立ち上がった。すると、沖合いから近づいてくる、大船と黒流が目に入った。
「おや?あれは、白麗(大船の名)と黒龍。ここは奴らの縄張りではないはず。何故ここに?」
訝しげな表情で、沖合いを見つめる頭目に、部下の兵士が叫んだ。
「奴隷達が、反乱です。」
「なんと、愚かな。命が惜しくないのか・・・。」
頭目は、一つ、ため息をつくと着くと、脇にあった大剣を持ち上げた。

1-1-22岬.jpg
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