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1-23 対決 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

23.対決
「貴方の相手は、私だ。」
立ち上がり、大剣を手にした頭目の前には、カケルが立っていた。
「お前はだれだ?」
「私の名は、カケル。九重から来た。」
「九重の者が、なぜここに居る?」
「アナト国の王と供に、新しき国作りのために、貴方がたを討つ。」
「アナトの国?新しき国作り?ふん、我が水軍も舐められたものよ。まあ、良い。どのみち、ここで果てるのだ。そらっ!」
頭目は、大剣を振り上げ、カケルに打ち下ろした。カケルは飛びのいて剣をかわす。大剣は、バリバリという音を立て、船の天井を打ち破った。
「ほう、多少はやれるのか。面白い。どこまでやれるかな?」
頭目は、大剣を引き抜くと再びカケルに迫ってくる。
「どうした?腰の剣は見せ掛けか?ほら、抜いてみろ!」
カケルは剣を抜いた。振り下ろされる大剣を払いのけようと横に大きく振った。ガキンと鈍い音がした。すると、頭目の大剣は、中ほどあたりで真っ二つに割れてしまった。
「おや・・長く遣っていなかったからか?まあ良い。」
頭目は、そう言うと、大剣を海の中へ投げ捨てて、帆柱に手をかけた。
「俺の本当の武器は、こいつなのさ。」
そう言うと、帆柱に括り付けられていた太い棒を外し手に持った。頭目の身丈の二倍はありそうなほど長い矛(ほこ)である。矛先は二つに分かれ、鍵のような形をしている。
「さあ、ここからが本当の戦いだ。そら、どうだ!」
矛先は、まっすぐカケルに向かっている。
頭目は、「それ!それ!」という掛け声と供に、カケルに矛先を突き立てる。カケルは左右に飛びながら矛先をかわすが、徐々に船の先端に追い詰められていく。すると、階下から兵達が数人駆け上がって来て、弓を構え、矢を放ち始めた。
「さあ、どうする?もう、後が無いぞ!ほれ、ほれ!」
頭目は不敵な笑顔を浮かべて、まるで獅子が子鼠を弄ぶような感覚で矛をついて来る。
カケルは、迫る矛先と飛んでくる矢を避けながら、機会を待った。
カケルの場所からは、大船と黒龍が徐々に迫って来ているのが見えていた。
「ううっ!」
一本の矢がカケルの右腕を貫いた。その衝撃で、カケルは足を取られ、船縁から転落した。
「ふん、口ほどにも無い。」
頭目がそう言って、カケルが落ちた辺りの海面を覗き込んだときだった。
「ヒュンヒュン」という音と供に、雨のように矢が降り注いできた。赤龍の天井にいた兵たちは次々に矢に射抜かれ、倒れていく。
「どうした?」
頭目が顔を上げると、「黒流」から、矢が放たれている。
さらに、その後ろ、頭目が「白麗」と呼ぶ大船には、錦糸で鯨が刺繍された朱の旗-アナト国王の旗が大きく掲げられていた。
「なんと、アナトの王が船を奪い攻めてきたというのか!」
頭目は、初めてうろたえた表情を見せた。矢に射抜かれ転がる兵を足蹴にして、頭目は、階下の兵に命じた。
「船を回せ、船首を黒龍に向けよ!ほら、どうした!漕がぬか!」
掛け声にも船は反応しなかった。階下の漕ぎ手の部屋はすでに、奴隷とされた男達が兵士達を倒していた。そして、男たちは、倒した兵から剣や弓を奪い取り、頭目へ迫ろうとしていた。

トモヒコは、大船が浜に向かったのを確認すると、急いで、徳の里の砦へ向かった。徳の里へ行き、頭領へ、今一度、水軍と戦う事を進言するためだった。アスカは、トモヒコと分かれ、浜辺に向かった。カケルが心配だったのだ。
「頭領、頭領!」
トモヒコは、砦に入ると頭領を探した。頭領は、砦の端にある物見台から、じっと浜辺の様子を見ていた。カケルの姿が見えなくなった事で、密かに船に乗り込み、水軍と戦うつもりだとわかっていた。だが、もし敗れれば、兵達が一気にここへ迫るに違いない。その事を心配し、じっと成り行きを見ていたのだった。
「頭領、こちらでしたか。」
トモヒコは、そう言うと、物見台から浜を見た。戦いが始まった事は、物見台からもわかった。そして、沖から、アナト国の旗を掲げた大船が近づいているのも判った。
「頭領、われらも戦いましょう。このままじっと水軍の言いなりになって、息を殺して生きるのはもうやめましょう。アナトの王も来られています。今ならば、奴らを打ちのめす事ができるはずです。」
トモヒコの進言に、頭領ミツルはずっと目を閉じたままであった。ミツルの脳裏には、先の頭領が命を落とした戦いがありありと浮かんでいたのだった。再び、あのような悲しみを繰り返したくない、その強い思いがあるからこそ、水軍から里の者を守る砦を作り、ひもじい思いをしながらも米や魚を奴らに渡してきた。それが自らの使命だと思ってきたのだ。
「トモヒコよ、そういう時が参ったのかも知れぬな。だが、わしには出来ぬ。年老い過ぎた。これより、お前が里を率いて参れ。そして、長年の恨みを晴らしてくれ。」
頭領ミツルは、静かにそう言うと、部屋へ篭ったのだった。

1-1-23矛.jpg
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