SSブログ

1-24 勝利 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

24.勝利
天板の上では、頭目が、弓を構え、「白麗」と「黒龍」に向けて、次々と矢を放っていた。
ただ一人の矢は届きはするが、大した威力など無い。もはや、頭目の敗北は明らかとなっていた。
天板に、タカヒコ達が現れた。階下にいた兵は、タカヒコたちによって制圧されていた。
頭目は、振り返り、睨みつけた。先ほどまでの余裕の表情など無い。弓を投げ捨てると、矛を持ち、構えた。
タカヒコが先頭に立ち、兵から奪った剣を構えて、ゆっくりと歩みを進めた。仲間たちも徐々に、間合いを詰めていく。
「もはや、敗北は明らか。矛を捨てられよ!」
頭目には、負けるなどという事は受け入れられぬ事であった。
「負けはせぬ、負けはせぬぞ!」
頭目はそう叫ぶと、矛を掲げ、タカヒコたちに迫った。さすがに大男の頭目が振り回す、矛の威力は凄まじく、タカヒコの持っていた剣は弾かれ、他の者も慌てて飛び退くのが精一杯だった。
「うおーっ」
次の瞬間、頭目は叫び声を上げ、船から飛び、桟橋へ下りた。
「逃さぬぞ!」
タカヒコたちは、すぐに頭目の後を追うため、階下に下りた。
桟橋に立った頭目は辺りを探った。なんと、浜に娘が一人いる。アスカだった。船の戦いを心配し、トモヒコと分かれて一人で浜にやってきていたのだ。頭目は、矛を抱えたまま、真っ直ぐアスカのところへ向かう。アスカも気付き、すぐに陸へ逃げようと走った。だが、頭目のほうが早く、浜小屋のところで、頭目はアスカを捕まえたのだった。
タカヒコたちが、桟橋へ出て浜へ降りた時にはすでにアスカは頭目に羽交い絞めにされていた。
迫るタカヒコたちに向かって頭目が言う。
「さあ、どうする?この娘を殺し、俺も殺すか?」
頭目は、浜小屋を背にして立ち、アスカの首筋に矛の先を当てて凄んだ。
「なんと、卑怯な真似を!」
「この娘、助けたくば、武器を捨てよ。さあ!」
ちょうど、その時、砦からようやく出てきた徳の里の者たちも姿を見せた。
「アスカ様!」
先頭にトモヒコが居た。里の者と船で奴隷として遣われた居た者が浜小屋を取り巻いた。
「逃げられはせぬぞ!」
トモヒコが叫ぶ。
「ほう・・徳の里の者もようやく出てきたか。・・長い間、我らに虐げられ、抗う事もできぬ腰抜けどもだったが・・・まあ、良い。この娘、助けたくば、小舟を用意せよ!さあ、急げ、急がぬと娘の命が尽きるぞ!」
アスカを人質にして、逃げ延びる算段だった。すぐに小舟が用意された。
「離れろ!ほら、どけ!道を空けろ!」
頭目は、アスカの首筋に矛の先を当てたまま、じりじりと小舟まで歩いていく。
鋭く砥がれた矛の先が、軽く飛鳥の首筋に当った。首筋から真っ赤な血が一筋流れ、首飾りに伝った。すると、徐々に首飾りが光り始める。首飾りの先に吊るされている土笛も低い音を立て始めた。
「なんだ、どうした?この光は?」
アスカを羽交い絞めにしていた頭目は、突然の光と音に驚いた。光と音は徐々に徐々に大きくなっていく。
頭目を取り巻いていた、タカヒコやトモヒコ達も驚き、様子を見守った。不意に、海岸にも光が生まれた。それは、カケルだった。頭目との戦いで、海へ落ちたカケルが、波打ち際に横たわっていたのだった。光は、カケルの腰の剣だった。剣の光は、カケルの全身を覆った。
「ぐるるるるる・・・。」
カケルが波打ち際で仁王立ちになっている。全身が震え、手も足も獣のように太くなっている。カッと目を見開くと、真っ直ぐ、頭目を睨みつけた。一歩、一歩、頭目に近づいていく。異様な光景だった。辺りの者はみな凍りついたように身じろぎもせず、じっとカケルと頭目を注視している。息の音すら聞こえない。波も風も止まったようだった。
「く・・来るな!化け物め!来るな!」
頭目は、迫るカケルの様相に恐れをなしている。カケルは、ゆっくりと腰の剣を抜いた。剣からは眩い光が発している。
「・・来るな・・・あああ・・。」
頭目は、その場に座り込んでしまった。
アスカは、その隙に、頭目の手を離れ、カケルに駆け寄り、背後に身を隠した。そして、カケルの背にそっと手を当てた。すると、カケルはゆっくりと息を吐き出し、もとの姿へ戻っていく。
「観念されよ。もう逃げ道もない。抗えば、命を落とすだけ。罪を償われよ。」
カケルが優しく囁いた。その言葉に、正気に戻った頭目は、辺りを見回した。数多くの民がじっと見ている。その目は全て、自分への恨みを持っているようだった。そして、その中に、哀れみに色さえ感じるのだった。
頭目は、地面に視線を落とし、今まで感じたことの無い悔しさと虚しさを噛み締めた。と同時に目の前に居るカケルへの憎しみが強く湧いてきた。
「うおーーっ。」
次の瞬間、頭目は矛を手にカケルに襲い掛かった。カケルは、身を返し、剣を振り下ろした。頭目の体は真っ赤な血潮を噴出し、その場に倒れた。

1-1-24狼の遠吠え1.jpg
nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0