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1-25 決断 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

25..決断
砦には、カケル、タマソ、タカヒコ、トモヒコ、タモツ等、この度の戦いで集まった者たちが顔を揃えていた。
「水軍は、それぞれ襲う里が決まっているようです。」
タカヒコが切り出した。タカヒコは、隣の熊毛の里の闘いの様子や、里を襲ったときの様子などを話した。タモツも、陶の里での事も話し、それぞれの里を襲った船が決まっている事を改めて確認した。
「すると、陶や徳の里にはこれよりのちは、水軍が訪れる事はないということか。」
タマソが言う。すでに、タマソは皆からアナト国の王と認められ、座の真ん中に座っていた。
「御意。・・ここに、白麗、黒龍、赤龍、三艘の船を手中にしました。もう、ここからの戦は我らにも分が出てまいりました。すぐにも、我が里、熊毛へ向かい、水軍との大戦を構えてはいかがでしょう?」
タカヒコが提案した。トモヒコも同調した。
「徳の里も加勢いたします。・そうだ、赤龍を我らに下されば、活躍できましょう。」
「ならば、黒龍は陶の我々に下さりませ。白麗を主船(おもぶね)として船団となりましょう。積年の恨みを晴らしたく存じます。」
タモツも同調した。
「カケル様、いかがでしょう?」
タマソがカケルに訊く。
頭目を倒した後、カケルは、気を失い、アスカの手当てを受けながら、横になっていた。じっと皆の話を聞きながら、ずっと天井を見つめていた。
タマソの問いに、カケルはゆっくりと身を起こしながら言った。
「この戦は、アナトの国の民の為。理不尽な蛮行を繰り返す水軍を征伐せねばならぬのは当然でしょう。・・・しかし・・・。」
「しかし?・・・何かまだ・・。」
「いや・・力と力で戦えば、多くの命を落とすことになります。・・あの頭目とて・・まだ、生きて償うべきであったはず。追い詰められ自分を見失った為に・・あのような事に。私は、命を奪う力を持つ我が身が恐ろしいのです。今、我らも、徐々に力を持ってきました。だからこそ、より慎重に事を構えるべきではないかと思います。」
「では、どうしろと?」
「いや・・判りません。ただ、力だけを背に、進むべきではないと・・・。」
煮え切らないカケルの言葉に、いらいらした口調で、トモヒコが言った。
「これは、我がアナト国の戦いです。王であるタマソ様がお決め下さい。」
トモヒコは、徳の里でも父である頭領に幾度と無く水軍との戦を進言しては拒否されてきた経験がある。だからこそ、鬱積したものも多く抱えており、少し性急な言い方で、戦への決断を王であるタマソへ迫ったのだった。
タマソ王は、周囲の者たちの顔をひとしきり眺めた後、ゆっくりと口を開いた。
「我らは、屋代の水軍を征伐する為に、ここまで来た。新たなアナト国を築く為に避けて通れぬ道なのだ。皆、心一つにし、アナト国のために、命を奉げてくれるか。」
皆、無言のまま頷いた。
「皆の覚悟は判った。我らはこれより、熊毛の里へ向かい、水軍との戦に臨む。まだまだ我らの力は弱い。熊毛の里も援軍とし、死力を尽くし戦おうぞ。」
タマソ王の言葉に、皆、気勢を上げた。ギョクが続ける。
「船も3隻となった。この先は、船団を組み進みましょう。白麗にはタマソ王に、黒龍にはタモツ様に、そして赤龍にはトモヒコ様に乗っていただきましょう。・・・赤龍を先導役にするが良いでしょう。熊毛までの道、タカヒコ様、案内いただけますか?」
「良いでしょう。水軍に見つからぬよう、できるだけ海岸沿いに進みましょう。」
タカヒコは応えた。こうして、赤間、陶、徳、熊毛のそれぞれの里の者が分かれて乗船し、出発の準備を進める事になった。
「カケル様、いかがされます?」
タマソは、戦を決断した事の正否を確かめるように、カケルに訊いた。
「私は・・・陸路を進みましょう。この先、熊毛までも小さな里はあるのでしょう?そうしたところがどうなっているか、少し見ておきたいのです。熊毛に入るのが少し遅れるかもしれませんが、お許し下さい。」
そう言って、アスカの顔を見た。
「私も、カケル様とともに参ります。船の上では私は何のお役にも立てません。カケル様に従い、村々で出来る事をやります。」
「そうですか・・・わかりました。・・・我らも、熊毛に入りしっかりと戦支度を整えましょう。水軍と正面から戦うには、まだまだ力不足。カケル様がお越しになるまで、戦には入らぬようにいたします。」
こうして、アナト国の船団は、徳の浜を離れ、穏やかな佐波の海へ出て行った。
カケルとアスカは、徳の里の女御から、新しい衣服や旅支度を用意された。女御たちが用意したのは、熱い木綿布を藍で染め抜いたものだった。
「この先は山中ばかり。でも、この服なら、虫や蛇も寄せ付けません。カケル様、アスカ様、お体に気をつけてくださいね。お二人のご恩、決して忘れません。」
女御たちは別れを惜しんだ。道案内には、サンジという男が選ばれた。サンジは、熊毛の生まれで、山猟師であった。陸路なら誰よりも詳しくうってつけだった。
「この先、しばらく峠道が続きます。なあに、五日ほど歩けば、熊毛の里に着けますから。」
サンジはそう言って、狭い陸路を先導して行った。

1-25中国山地.jpg
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