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1-26 可良(から)の里 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

26.可良(から)の里
徳の里から、峠を越えた辺りには、小さな里が幾つかあった。しかし、どの里も、度重なる水軍の略奪に遭い、疲弊していた。カケルとアスカは、里を通る時、少しでも役立てばと、山中で狩りをし、幾ばくかの獲物を置いてきたり、家や水路の修復もした。おかげで、五日で着ける予定は随分と狂ってしまったのだった。
「あの峠を越えたところに室積の里があります。そこから、峠を越えれば、熊毛の里に入ります。」
サンジは、遠くに見える峠を指差して言った。
「もう大船は着いているだろうか?」
カケルが問う。
「さあ・・徳の里から、上手く進めば二日ほどですが・・・なにぶん、その流れが判りません。時にまったく進めぬ事さえあるようですから・・・特に、熊毛の里の前は渦潮となっていて、簡単には岸に着けないと聞きました。そのおかげで、水軍も滅多に襲えないところなのです。」

五日目に辿りついた可良(から)の里は、海岸まで迫った山と海に浮かぶ島との間に土砂が溜まり、地続きとなった平地にあった。10軒ほどの家がこじんまりと集まって集落を作っていたようだが、皆、黒く焼け落ち、家跡ばかりになっていた。
「水軍に火をかけられたのでしょう。」
サンジは、里に誰か残っていないか、焼け落ちた家屋の周りを探り歩いた。
「痛い!」
アスカが叫んだ。何処からか石礫が飛んできた。
「誰だ!誰か居るのか?」
カケルが石礫の飛んできた山の方へ叫んだ。だが、返答は無く、再び石礫が飛んでくる。どれもちいさな石ころで、怪我をするようなものではなかった。
「出ておいで、我らは水軍ではない!何もしないから!」
カケルは山裾にある草叢に向かって叫ぶ。アスカも立ち上がり、草むらに近づき優しく言った。
「怖がらなくても大丈夫。何もしないから。」
アスカの優しい声に反応したのか、草叢から、男の子が一人顔を出した。だが、警戒している。手には棒を持ち、じっとカケルとアスカを睨みつけている。衣服は、ところどころ破れ泥まみれ、全身はやせ細っている。十歳くらいなのか、何も言わずじっと立っている。そして、その子どもの後ろにも、子どもが顔を出した。はじめに出てきた子どもより少し小さい女の子のようだった。
「兄妹か?」
カケルの問いかけに、女の子はビクッとして男の子の背に隠れた。
「二人だけ?」
アスカが訊くと、その兄妹の後ろから、十人ほどの子どもが顔を見せた。皆、一様に汚れた服でやせ細っている。じっとカケルとアスカを睨んだまま、押し黙ったままであった。
「カケル様!カケル様!」
サンジが里を一回りして戻ってきた。その声に子ども達は、急いで草むらに隠れてしまった。
「誰も居ないようですね。水軍の奴らが皆殺しにしたか、連れて行ったか・・惨い事をする。」
「いや・・サンジ様、ここに子どもたちが隠れております。」
「何ですと?・・子どもたちが?・・・おい、俺は、熊毛の里のサンジ者だ。顔を見せろ。」
サンジは、草むらに声を掛ける。先ほどの子どもの中の一人が立ち上がり、顔を出した。
「サンジさん?!」
「おお・・・お前は・・テツ、テツじゃないか! 無事だったか・・良かった。」
顔を出した子どもは、サンジと顔馴染の子どもだった。サンジは山漁師で、熊や猪を獲物に、この周囲の山々を歩き渡り、この里にも何度か立ち寄った事があったのだ。
サンジは、テツから話を聞いた。
「カケル様、子どもらの話では、三日ほど前、ここに水軍がやって来たそうです。親御たちが、急ぎ、子どもたちを山に隠したようで、燃え盛る火を見て、戻った時には、誰も居なかったようです。おそらく、水軍が連れ去ったのでしょう。」
「子どもらだけが残されたのか?」
「そのようです。皆、ひもじい思いをしています。私は、猪でも獲って参りましょう。」
サンジが言うと、「私も行こう」とカケルも猟に同行することにした。
「アスカ、子どもらを頼む。・・身奇麗にしてやってくれ。それから・・里の中のどこかに米でもあれば良いのだが・・・」
カケルが言うと、アスカは、「承知しました。」と答えた。
アスカは、子どもらとともに、焼け落ちた家屋から使えそうなものを集め、かろうじて焼け残った家に入り、かまどに火を起こした。近くの湧き水から水を運び、湯を沸かした。沸いた湯を使い、子らの体を洗い、衣服も洗った。その頃には、子どもたちもようやくアスカに心を開くようになっていた。
水軍に襲われ、家々が焼け落ちる光景を目の当たりにした子どもたちは、心に深い傷を負っているようだった。体を洗っている最中にも、突然、涙す事もあり、アスカもつられて涙を流した。一番幼い子は、ずっとアスカの傍にくっついている。よほど辛かったのだろう。
夕暮れには、カケルとサンジが、大きな猪を抱えて戻ってきた。猪はすぐに開いて、火に翳し焼いた。子どもらは、競うように猪の肉を頬張った。満腹になった子どもらは、火の傍で横になり眠りに落ちた。
「子どもらをここに残していくわけにはいきません。熊毛の里まで連れて行きましょう。」
サンジは、眠る子らの顔を眺めながら言った。カケルもアスカも頷いた。
翌朝には、子どもらとともに、カケルたちは峠を越えて、熊毛の里の入口に入ったのだった。

1-26室積海岸.jpg
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