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1-27 馬島(ましま) [アスカケ第4部瀬戸の大海]

27.馬島
徳の浜を出航した船は、途中、強い波と東風のために、思うように進めず、小さな島影に避難しながら、熊毛の里を目指して進んだ。三日もあれば到着するはず距離だが、五日掛かってようやく、熊毛の里の入口に当る梶取岬に到着できた。
「ここから先は、潮の流れが複雑で、途中、渦の捲いているところもあります。屋代の水軍も潜んでいるかもしれません。充分に用心して参りましょう。」
ギョクは、慎重に船を進める。潮は予想以上に複雑で、赤龍と黒龍は何とか突き進んだが、大船「白麗」は船体が大きく渦に取られると思うように進めず、タマソ達は難儀をした。
「こんな事では、水軍との戦など出来ぬぞ!」
タマソは揺れる船の船尾に立ち、漕ぎ手に声を掛ける。眼前に、高い山が見えてきた。
赤龍が先行していく。ゆっくりと慎重に船を進めていた時だった。船首で行く手を見張っていた者が叫ぶ。
「船が居ます。・・・大船です!」
「水軍が現れたか!」
赤龍の中は、水軍出現に色めき立った。
「そこの島影に隠れるぞ!」
後続の、黒龍や白麗にも旗で知らされた。三隻は潮に流されぬよう、それぞれを縄で縛り船体をくっつけた状態で「馬島」の影に停泊した。そして、やってくる大船の様子を探る。
大船は、船体を右や左に揺らし、時には後退している。その様子は、遠目で見ても、激しい潮の流れに揉まれ、舵が効かずにいる様だった。
「様子がおかしいな。」
ギョクが呟いた。タマソやタカヒコたちも船縁からじっと様子を見守っていた。
そのうちに、大船は、少しだけ頭を出していた岩礁を避けようとしたのか、大きく右に船体を振ったと思うと、馬島の浅瀬に乗り上げて、身動きできなくなったようだった。
しばらくすると、甲冑と剣をつけた兵士が数人、甲板から顔を出し、乗り上げた浅瀬の様子を見ているのが見えた。
「まるで、素人のような・・・水軍の船とは思えぬ在り様だな。」
ギョクが再び呟いた。
「なあ・・今なら、あいつらをやっつけられるんじゃないか?」
カズが誰にとも無く言った。サカやマサが顔を見合わせた。そして、タマソ王を見た。
タマソ王も、じっと成り行きを見守っていたが、身動きできぬ水軍の船を攻めるのは容易な事のように感じていた。
タカヒコが言った。
「王様、一気に攻めましょう。黒龍と赤龍とで挟み込んで矢を掛けましょう。大船といえども、両方から一気に攻められれば容易く落ちるでしょう。」
それを聞いて、タマソ王は決断した。
「よし、タカヒコの言うとおりに、両脇から一気に攻める。矢を掛け、水軍が反撃してきたら、白麗を押し出して更に攻める。良いか、矢を掛けるだけで良いぞ。三隻が現れれば、おそらく手向かいも止めるはずだ。良いな。」
タマソ王の決断で、一気に赤龍と黒龍は流れに乗って、水軍の船に向かった。徐々に間合いを詰めていったが、水軍からはまったく攻撃する気配がない。タカヒコは舳先を水軍の船に付けると、先陣を切って、水軍の船に乗り込んだ。しかし、そこには、兵士達の姿は無かった。
「どうしたというのだ?誰も居ないのか?」
甲板から船内に降りる階段から、一人の男が恐る恐る顔を出した。
「タカヒコ様?タカヒコ様ですね?」
その男は、水軍の甲冑を身につけていたため、周囲の者がすぐに取り押さえた。押さえつけた男の顔をタカヒコが見て言った。
「離してやってくれ。この者は、熊毛のシュウという者だ。シュウ、どうした?これは一体?」
シュウは、座り込むと涙ながらに、一部始終を話した。
「砦から、船がやってくるのが見えて、すぐに、下の可良(から)の里へ行ったんです。しかし、その時は、里は火の海で、里の者たちは捕らえられておりました。私は、兵士に紛れ、船に潜んで、機会を伺っておりました。」
タマソ王も、大船から、船を渡りやってきていた。シュウに訊いた。
「頭目も・・兵も居らぬようだが?」
シュウは絞り出すような声で言った。
「・・私が・・殺しました・・・。」
タカヒコには、おおよそ見当がついた。
「懐に忍ばせていたトリカブトの粉を、食事に混ぜました。・・・やってはならぬと厳しく禁じられていた事をやってしまいました・・・・」
シュウは、幼い頃から長老に仕込まれた、「薬草摘み」の名人であった。熊毛の里では、シュウが周囲の野山から様々な薬草を採ってきて、里の者の病を治す仕事をしていたのだった。
「里の者を救うため、已む無く、やった事なのだろう。長老も許してくださるはずだ。」
タカヒコは、シュウの肩に手を置き、慰めるように言った。
船底に押し込められていた里の者たちが解放された。三日間も押し込まれ、意識もないほど衰弱した者もいた。
「シュウ、皆を救ってやってくれ。さあ。」
シュウは、タカヒコの言葉に勇気付けられ、立ち上がった。そして、懐にある薬草袋を取り出し、すぐに薬を煎じ始めた。
「さあ、潮が満ちてくる。熊毛の里へ向かうぞ。」

1-27瀬戸内海島02.jpg
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