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1-2 摂津比古 [アスカケ第5部大和へ]

2. 摂津比古
イノクマは、カケルとアスカを自分たちの宿に案内し、夕餉を伴にした。
「それにしても、ここでカケル様たちにお会いしようとは・・・あれから、何度か、鞆の浦から難波津を往復し、途中、明石にも立ち寄りました。カケル様たちが淵辺で水路を作られているという話を、港の者達も楽しげに話して聞かせてくれました。」
「そうですか・・・ええ・・・何とか、水路も出来ましたし、淵辺の里も蘇る目処も付きましたので、今朝、明石を発ちました。・・・ようやく、アスカとの約束を果たすことが出来そうです。」
「では、大和へ入られるおつもりですな?」
「ええ、ですが、戦がおきていると聞きました。」
カケルの曇った顔を見て、イノクマが言った。
「難波津の、摂津比古様に相談するのが良いでしょう。今や、ここ難波津こそ、都に相応しいと言う者が居るくらいです。どなたが皇君になられるか、摂津比古様の心次第とも聞きました。」
「それほどまでの力をお持ちなのですか?」
カケルは驚いた。
「はい。ここ難波津の荷が無ければ、都の暮らしも成り立ちませんゆえ、大和の豪族たちも、摂津比古様の機嫌を損ねる事はできぬのです。明日にも、摂津比古様のところへ使者を送りましょう。何か、お力になっていただけるはずです。」

翌朝、イノクマは、摂津比古のところへ使者を送った。しかし、摂津比古は不在との事であった。
「山背(やましろ)の地へ赴かれているようです。お戻りになるのはまだ先との事です。まあ、すぐにも会っていただける筈ですから、お帰りを待ちましょう。」
使者からの言葉を、イノクマはカケルたちに伝えた。
「摂津比古様の館はどこにあるのですか?」
カケルの問いに、イノクマは、指差して答えた。
「ほら、あそこ。あの高台に高楼が見えるでしょう。あそこが館です。」
指差す先には、松林が広がっていたが、その先には、高楼が見えた。
「私も一度だけ、挨拶に伺いました。・・いや・・驚くばかりの雅な館です。・・こここそが都だと噂されるに違わぬほどのものでした。何でも、海を越えてきた渡来人がすべて作ったとのことです。まるで夢の中に迷い込んだようでした。」

カケルとアスカは、摂津比古が戻るまでの間、イノクマを手伝い、港に留まる事になった。
難波津には毎日のように各地の産物を載せた船が着く。船が着くと、皆が手伝い、荷を下ろし、蔵へ運び込む。また、蔵から荷を運び出し、河内の海に浮かぶ船に載せ、大和へ送る。ここでは、どこの国の者かは関係なく、協力し合い、少しでも多くの荷を動かす事に熱心であった。
イノクマは、カケルとアスカは大事な客人だといって、仕事などしなくても良いと言ったが、カケルたちは、世話になる以上何か仕事をせねばと言い、人夫たちと一緒に過ごしていた。
カケルは、男達に混じり、荷物を運んだ。強靭な体のカケルは、人夫の誰よりも多くの荷を担ぎ、運んだ。人夫達はすぐにカケルを認め、誰もがカケルを頼るようになった。
アスカは、女達と伴に、食事の支度や身の回りの仕事をした。アスカは、初めて見る食材に戸惑いながらも、女達から熱心に料理を教わった。数日で、アスカは誰よりも手早く美味しい食事を作るようになった。

摂津比古が戻ったのは、カケル達が難波津に到着して、二十日ほど経ってからだった。
夕餉が終わる頃、摂津比古からの使者が、イノクマの宿に来た。
使者は、葦で作った大きな笠を被り、面をつけていて、黄色い衣服を纏っていた。
「頭領が、お会いしても良いと仰せです。明朝、お二人で館へお越し下さい。」
使者はそれだけを言うと、すぐに帰って行った。

翌朝、カケルとアスカは、イノクマが用意してくれた衣服を身につけ、摂津比古の館へ向かった。
摂津比古の館は、港を見下ろせる高台に建っていて、周囲をぐるりと石積みが囲んでいた。大門まで来ると、瀬戸の大海と、河内の中海の両方が見渡せた。行き来する船が全て手に取るようにわかる場所であった。
大門の門番に、面会の旨を告げると、館の中から、昨日の使者が姿を見せた。
昨夜と同じく、黄色い衣装に面をつけていた。その使者は、静かに頭を上げると、こちらへとばかり手を差し伸べ、二人を館の中へ案内した。
館の中は、見事な作りだった。大門を入るとすぐに、大きな回廊が屋敷を取り囲んでいる。回廊の中は、玉砂利が敷かれ、中央に、石畳が真っ直ぐに伸びている。その先には、大屋根をもつ館が建っている。建物は全て朱に塗られていた。館の後ろには三層の高楼も聳えている。
カケルとアスカは、見た事も無い作りの屋敷に圧倒されていた。
「こちらでお待ち下さい。」
先ほどの案内役が始めて言葉を発し、二人を広間に入れた。木板を貼りつめた床は、きれいに磨かれ、壁には、韓国のものと思われる壷や刀剣が飾られている。一段高いところに、玉座が二つ置かれていた。そして、玉座の前には、鹿の皮が何枚も敷かれている。
「お待たせしましたな。」
広間全体に響き渡る太い声とともに、金色の刺繍が施された派手な衣服を纏った、大柄な男が現れた。

1-2播磨灘.jpg
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