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1-3 面会 [アスカケ第5部大和へ]

3. 面会
大柄な男は、玉座には座らず、床に敷かれた鹿皮の上に胡坐をかいて座り込んだ。そして、「さあどうぞ」とばかり、二人に手を広げて見せた。カケルとアスカは、その男の前に並んで座った。
「私が、ここの統領、摂津比古と申す。どうだ、難波津は。面白いところだろう。」
満面の笑顔で、摂津比古は二人に問いかけた。
カケルとアスカは、深々とお辞儀をし、挨拶をした。
「私は、九重から参りましたカケルと申します。こちらは、アスカです。」
「ええ、使いの者からあらかた聞いておる。東国へ向っているとか・・・大和へ入るつもりか?」
「はい・・アスカの父様が居られるのです。どうしても、一目お会いしたいと思っております。」
カケルの返答に、摂津比古はアスカの顔を見て言った。
「そなたの父とはどなたかな?」
アスカは、一度、カケルの顔を見てから答えた。
「葛城の王と聞いております。・・・屋代島にて、リュウキ様より教えられました。」
摂津比古は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに平静を取り戻し言った。
「ほう・・葛城の王とは・・・逢って何とする?」
アスカは答えに困った様子だった。逢いたいとは思っていたが、どうすると問われ答えは無かったのだ。すぐにカケルが答えた。
「私は、アスカを妻としたいと考えております。それゆえ、父様にお会いし、夫婦になる事を許していただきたいと思っております。」
摂津比古は、カケルに訊いた。
「夫婦になるために、わざわざ九重の地から参ったというのか?・・母様はどうした?」
カケルは、屋代島でリュウキから聞いた話を摂津比古に話した。
「昔、東国から韓に向かう船に、須佐名姫と云うお方が乗られていた。そのお方は、王の命により韓へ輿入れされるとの事でしたが、葛城王との契りを交わして居られ、お腹には子がいたそうです。それを知ったリュウキ様が、東国の船から逃がし、匿われた。須佐那姫は、屋代島で無事に子を産み、リュウキ様と伴に暮らして居られたそうですが、東国の兵に見つかり、敢え無く命を落とされたのです。アスカは、須佐那姫の手で船に載せられ、ヒムカの浜に流れ着いたというわけです。」

一通り、話を聞いた摂津比古は、じっくり眼を閉じて何か考えているようだった。
「葛城王がそなたの父と示す証拠はあるのか?」
アスカは、首飾りを取り出して言った。
「これは、母が私に持たせたもの。これが父と母との契りを示すものと思っております。」
「見せてみよ。」
アスカは、摂津比古に首飾りを渡した。摂津比古は首飾りを手にすると食い入るように見つめた。
「確かに、この首飾りにある紋様は、葛城王の紋様に相違ない。・・そうか・・事情はわかった。だが、すぐに葛城王に逢わせる訳にはいかぬぞ。」
摂津比古の言葉は、意外だった。不思議な顔をしている二人に、摂津比古は言う。
「そなたたちも存じていると思うが、今、大和は皇君が崩御され、次の世を廻り、各地で戦が起きておる。・・本来ならば葛城皇こそが、次の皇君になられるべき御人なのだが、それを拒む豪族が数多いる。葛城王は戦を嫌い、今は、身を隠されておる。」
「次の皇君が葛城王?」
「ああ、崩御された皇君の弟君であり、思慮深く、民を大切になさるお方なのだ。だが、葛城王は妻を持たれず、御子も居られぬ。ゆえに、皇君にはならぬと申されているのだ。それに、我が難波一族は、王の姻戚でもある。葛城王の妹君は我が妻なのだ。この時期、わが地より、葛城王の元へ使者を送れば、豪族たちは一層いきり立つであろう。」
「戦の火が一層大きくなると言われるのですね。」
「ああ。我が難波一族が葛城王を次の皇君にと考えているのは、豪族たちも知っておる。故に、われらの手の者が大和へ入れば無事には済むまい。・・ましてや、葛城王の娘・・・いや、姫とその夫となるべき者であればなおの事。・・言わば、そなたたちは、いずれは、皇君になるお方かも知れぬと言う事になるのだ。」
カケルとアスカは、摂津比古の話に驚きを隠せなかった。
アスカは、ただ、自分が何者か、父や母は誰なのかを知りたかっただけであった。だが、父娘の関係を定めることは、この国を背負う定めを受け入れる事になるとは思いもしなかった。
「私はただ・・父に一目お逢いしたかっただけ。ですが、・・・このまま、逢わずに九重へ戻ります。・・皇君になられるようなお方だと判れば、とてもお会いする事など・・・」
アスカの言葉に、摂津比古は切なげな顔で言った。
「そうはいかぬな。私も、そなたが葛城王の姫と知ったからには、このまま知らぬ顔は出来ぬ。・・まあ、しばらく、ここに居られよ。時が来れば、道も開けよう。」
「時が来れば・・とは・・いつの事なのでしょう?」
アスカはすっかり落胆した表情だった。摂津比古は、落ち着いた声で言った。
「カケル殿、そなたにはわかるであろう。」
カケルは、摂津比古の話を聞き、自分達が置かれている状況を悟っていた。もはや、自分たちの意思で動く事ができぬ境遇になっている。もっと早く、大和へ着いていれば、事態は変わっていたのかもしれない。この後、皇君が定まるまでは、大和へ入らぬほうが良いとも思った。
「アスカ、ここは摂津比古様がおっしゃるとおりにしよう。間違いなく、葛城王が、アスカの父と判ったのだ。今しばらく、難波津に身を置いて、時を待とう。」

1-3高楼.jpg
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