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1-7 病 [アスカケ第5部大和へ]

7. 病
摂津比古とカケルは、難波津の港を過ぎ、さらにその先に向かった。
「ここが、内海と大海を繋ぐところだ。」
摂津比古が指差した先には、確かに、川のような流れが見て取れた。しかし、そこは、見渡す限りの干潟となっていて、流れを堰き止めている。
「ここの流れを広げられれば、内海の水も外へ出て行くはずですね。」
カケルの言葉に、摂津比古が溜息交じりに応えた。
「以前、ここを少し掘り下げられぬかとやってみたのだが、なにぶん、この干潟、溝をつけてもすぐに埋まってしまう。足を踏み入れると腰まで埋まるところもある。難儀なうえ、掘り進めても、すぐに、流れで砂が溜まり、一潮で埋まってしまうのだ。以前は、ここももう少し水が流れていたのだが・・また砂が増えたようだな。」
カケルはじっと流れを見ていたが、とても掘り下げる事はできないと感じた。
「しかし、このままでは、ますます内海の水が増え、そのうち、この辺りは人が住めなくなるだろう。何とかして、水を吐き出させねばならぬのだが・・・。」
摂津比古とカケルは、一旦、難波津の館に戻る事にした。

 アスカは、翌日から、奥方に付いて、行儀作法を身につける日々となった。女人たちが、朝から、アスカに衣装を着せ、食事や所作を手取り足取り教えた。
「そなた、韓の言葉をわかりますか?」
「いえ・・」
「都には、遥か海を越えて渡ってきた韓の者たちが多く、都人(みやこびと)は、韓の言葉を話すことが出来るそうです。せめて、韓の文字を知らねばなりません。」
奥方は、そう言うと、部屋から幾つかの巻物を携えてきた。一つを解き、アスカの前に広げた。
「あら・・これは・・・。」
アスカは驚いた。全てではないが、多くは、カケルから教わった古の言葉と同じだった。カケルの祖先も、韓から海を渡り九重に住み着いたと聞いていた。
「奥方様、この文字なら、読めます。カケル様から、随分、教わりました。ええ・・読めます。」
アスカは巻物を手に取ると、声に出して読み始めた。奥方は驚いた。自分さえ、まだ半分も読めずにいたのだ。読みながら、アスカはふと思いついた。
「奥方様、こうした巻物は他にもあるのですか?」
「ええ・・蔵にいけばたくさんあります。いずれも、昔、韓の船が運んできたもの。」
「それを見せていただけませんか?」
「どうしようと言うのです?」
「・・・カケル様は、同じような書物から、病に効く薬草を探し当てられました。もし、そうした書物があれば、病を治す手立てが見つかるかもしれません。」
奥方は、アスカの考えに応え、館のはずれにある蔵へアスカを連れて行った。高床の蔵に入ると、幾つかの棚に、たくさんの巻物が積まれていた。その日から、アスカと奥方は、巻物を一つ一つ開いて、病に関わる記述がないか調べていった。

館に戻ると、アスカが幾つかの巻物を手にカケルのもとへやって来た。
「カケル様!」
「どうしたのだ?」
「・・実は・・あの者たちの病を直す手立ては無いものかと・・蔵にある書物を調べておりました。・・ですが・・書かれた文字が難しくて・・・カケル様ならばお分かりになるのではと・・。」
アスカが、病に関わると考えた巻物をカケルに手渡した。
カケルは、幾つかを広げて見た。
「・・これは・・韓の言葉ではないようだな・・似ているが・・少し違う。・・おそらく、隣国の書・・漢という国のものではないか?」
カケルはそう言うと、他の巻物も広げ始めた。
「部屋に持っていこう・・じっくり見なければ判らぬ。」
カケルはそう言うと、アスカが運んできた巻物を全て抱えて、自分の部屋に持っていった。アスカもカケルの後を付いて、部屋に入った。二人は、巻物を一つ一つ広げ、比べ、韓の言葉と同じ文字を手がかりに、巻物に記された文字を読み解いていく。時折、奥方が顔を出し、様子を見ると、食事や灯りを部屋に運ばせた。

「カケル様は、素晴らしき知識をお持ちのようですね。」
奥方は、カケルとアスカの様子を摂津比古に伝えながら、感心したように言った。
「ああ・・おそらく、カケル様とアスカ様は、いずれ、この国を治めるお方になるであろう。」
「では・・その事を葛城王様へもお伝えせねば・・・きっとお喜びになられるでしょう。」
「ああ、そうしよう。きっと葛城王も、お二人の存在をお知りになれば、考えもお変わりになるやも知れぬからな。」

カケルとアスカは、夜を徹して、巻物に取り付いて調べ続けた。
東の空が白み始めた頃、カケルはようやく一つの記述に辿りついた。
「アスカ、おそらくこれが病の治し方だろう。少し判らぬところもあるが・・爛れた肉を癒すと書かれている。・・・試してみないと判らないが・・今は、これしか判らぬ。」
「何と書かれておるのですか?」
カケルは、アスカに記述されている内容を聞かせた。

1-7干潟.jpg
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