SSブログ

1-8 治療 [アスカケ第5部大和へ]

8. 治療
「奥方様、お願いがございます。」
アスカは、カケルと見つけた治療法を携え、奥方の部屋へ行き、着替えを済ませたばかりの奥方を前に、治療方法について説明を始めた。
それを聞いた奥方は、戸惑いながら言った。
「誰かで、試してみないことには・・・」
脇に控えていた、<念ず者>が言った。
「昨日、病が進んで館へ運ばれてきた者が居ります。・・介抱せねばならぬところです。その者に頼んでみましょう。」
すぐに、アスカは、女人を何人か集め、竹籠を抱えて、館を出た。
「どこに行かれるのですか?」
「・・治療の為の薬草を探すのです。この時期ならば、きっとどこかに生えているはず。」
女人の一人が、それならばと案内をした。館を出て、北側の斜面を降りていく。河内の内海が朝日を浴びてきらきらと輝いて見えた。
「ほら、あそこです。・・我らも幾度かここで草摘みをしております。」
すぐに、アスカは草叢へ分け入った。姫が先に草叢に入るなど、女人達は慌てたが、アスカは構うことなく、どんどんと入っていく。
「何という草なのですか?」
「スミレです。紫の花を咲かせているはず。」
アスカはそういうと、必死に足元の草を分けて探した。付いてきた女人たちも、アスカ同様、必死に探した。
「日陰に咲いているはず。」
「あ・・ありました!」
一人の女人が、土手になっている場所に花を見つけた。アスカは草を分けつつ、声のするほうへ走った。
「ええ・・これ・・これです。・・篭いっぱいに摘みましょう。」
すぐに手分けして摘み始め、あっという間に篭いっぱいになった。それを抱えて館へ戻った。
「次は何をなさるのですか?」
「積んだ草は、天日に干します。一日ほど干してから、煎じ薬を作ります。」
皆で手分けして、館の庭に広げた。天火に干すと、徐々に小さくなっていく。
「これだけでは・・足りませんね。・・もっと摘んで来なければ・・。」
それを聞いた女人が言った。
「花摘みなら、娘子にも手伝わせましょう。さあ、行きましょう。」
そう言うと、数人の女人が連れ立って、港のほうへ出て行った。
「他には?」
アスカは少し考えてから、
「それでは・・白い布を集めましょう。・・あの方たちの身体を綺麗に拭き清めなければなりません。たくさんの布が必要です。」
吹き清めると聞いて、女人達はざわめいた。これまで、触れると自らも病に罹ると聞いていた。
「吹き清めると・・・あの者たちの身体に触れるのですか?」
女人の一人が恐る恐る訊く。
「ええ・・熱いお湯を沸かし、綺麗に拭いて差し上げるのです。そうして、清潔にする事が病を治す手立てなのです。」
「しかし・・・。」
女人たちはたじろいでいる。その様子をアスカはすぐに理解した。
「まずは、お一人の方を試しに私がやってみます。・・効果が無いようなら別の手立てを考えます。とにかく、布がたくさん必要なのです。」
女人達は、とりあえず、港へ行き、手に入る白い布を探す事にした。

翌日には、件の<念じ者>が、仲間の手で、館の中庭に運び込まれた。摂津比古や奥方、カケルも見守る中、いよいよ治療が始められた。竃には、大甕に大量の湯が湧いていた。
「さあ、黄色い布を解いて、爛れている肌を見せてください。」
アスカは、手元に、用意した布と湯を入れた甕を置いた。湯は火傷するほどの熱さだった。
その<念じ者>は、爛れた両方の腕をそっと出した。アスカが、手を差し伸べようとしたところで、一人の娘が進み出た。
「私にやらせてください。」
その娘は、ナツという名だった。幼い時、ナツの父も母も、同じ病で命を落としていて、摂津比古の奥方が、引き取って育てたのだった。
ナツは、優しくその手を取ると、肌に張り付いて取れなかった黄色い布を少しずつ剥がした。肌からは黄色い膿が出ていた。
「少し痛いかもしれませんが、我慢できますか?」
アスカが問うと、<念じ者>は無言で頷いた。ナツは甕から柄杓で湯を掬い取り、爛れた肌に少しずつかけた。<念じ者>は、一瞬「ううっ」という呻き声を上げる。
「痛いですか?」
ナツが気遣うと、<念じ者>は、首を横に振り、ぐっと我慢した。何度か、湯をかけると、膿が全て流れ出て、赤くなった肌には血が滲んでいた。
「そっと血を拭き取って、白い布を捲いてください。それから、煎じ薬を飲んでください。」

1-8スミレ一輪.jpg
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0