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1-10 明石へ戻る [アスカケ第5部大和へ]

10. 明石へ戻る
カケルは、イノクマの船で明石へ向かった。一日で到着し、すぐにオオヒコの許を訪ねた。オオヒコと奥方は、カケルを歓迎し、恒例の宴へ同席させた。その夜も、西海のあちこちの里から、多くの船が来ていて、宴は盛り上がっている。
「我がアナトの国は随分変わったぞ。・・新しい王は、佐波の海の真ん中に浮かぶ小さな島に館を作り、行き交う船を立ち寄らせては、国中の話を聞いてくれるのだ。・・で、何か困ったことが起きるとすぐに出かけて行って、解決なさる。・・本当に素晴らしき王だ。」
酒に酔った男が、酒壷を抱え、自慢げに話をしている。それを聞いていた別の男も、立ち上がると、宴の席じゅうに響くような声で言った。
「伊予とてなかなか。豊かな実を実らせる畑が国中に広がっている。・・そうそう、海の向こうのヒムカの国とも交易を始めたのだ。本当に素晴らしきところだぞ!」
他にも、おのおのに、国自慢をしている。カケルは、そうした話を耳にして、何か、途轍もなく嬉しく、幸せな気持ちになれた。
「どうです、カケル殿。皆、幸せそうな顔をしているでしょう。・・ここの港に集まる者はみなあのように元気が良い。港を作った頃は、皆厳しい顔をしていました。どうやら、西海には、随分と、安寧な国が増えたようです。民も皆、喜んでいるはずです。」
「ええ・・そのようですね。・・」
「カケル殿のなされた事が、西海の国々を変えてきたようですね。」
「いえ、私の力などたいしたものではありません。皆が力を合わせたからこその事でしょう。・・ところで、淵辺の里は、いかがですか?」
カケルの質問に、オオヒコは笑顔を見せた。
「・・皆、あれから必死に里作りを進め、豊かな農地を作り上げました。今年の秋には、たくさんの米や黍がここから東国へ送れるでしょう。思った以上に良い里になりましたよ。明日にでも行かれるが良い。きっと、皆も、カケル殿に会いたいはず。是非にも。」

翌朝、カケルは淵辺の里へ向かった。
前日のうちに、オオヒコから淵辺の里へ知らせが送られていて、淵辺では、アタルとユキが、カケルが訪れるのを待っていた。
カケルは明石の港から、小舟で淵辺へ向かった。小舟は、一旦、海へ出て、水路伝いに里へ入った。アタルたちと一緒に作り上げた主線の水路からは、四方に細い水路が延びていて、最初に描いた以上に、大きな水郷になっていた。あちこちに小さな倉も建っていた。収穫物をたっぷり蓄えられるように作ったものだった。
「あれが、長の館です。」
丘の中腹辺りに、小さな館が建っていて、二人が手を振り、カケルを出迎えているのが見えた。
「ようこそ、おいでくださいました。」
アタルが深く頭を下げ、カケルを出迎えた。ユキの腕には、赤子が抱えられている。
「御子が生まれたのですか?」
「はい・・春に生まれたばかりです。・・男の子です。」
ユキは嬉しそうに抱きかかえた赤子をカケルに見せた。
「名は?」
カケルの問いに、ユキは少し困ったような表情で、アタルの顔を見た。アタルは、少し戸惑いながら言った。
「・・いろいろ考えたのですが・・実は、強く賢い男になってもらいたいと願いを込めて・・その・・・カケルと名づけました。・・勝手に・・済みません。お許し下さい。」
アタルは申し訳なさそうに頭を下げた。
「そうか・・カケルか・・・いや、構いません。私の名で良ければ・・いや・・私も嬉しい。同じ名を持つ者が、この里をいずれ治めるというのも嬉しいものです。ありがとう。・・強く、育てよ!」
カケルは、笑顔で、ユキの抱える赤子にそっと手を当てて、愛おしむような仕草をして言った。アタルもユキも、ほっとしたような表情をして、我が子を見つめた。
「それにしても、素晴らしい里になりましたね。・・随分、苦労したでしょう。」
カケルは、遠く里の様子を眺めながら言った。
「いえ・・皆、よく働き、周りの里や明石からも手伝いに来てくれました。私一人の力ではありません。皆が本当に頑張ってくれました。豊かな水のほとりで暮らす・・何よりの幸せです。恐ろしき水が、ありがたき水に変わりました。」
アタルも満足そうに答えた。
「カケル様は、何用でこちらに参られたのですか?てっきり大和へ行かれたものと思っておりましたが・・。」
ユキが訊いた。カケルは、難波津での日々の様子を話した。
「アスカ様は、変わらず、命をお救いされる役をされているのですね。・・目に浮かぶようです。きっと、休む事も忘れて働いておられるのでしょう。」
ユキは嬉しそうに言った。
「実は、河内の内海が、度々水害を起こすのです。外海への水路を作ろうとしましたが・・なかなか上手くいかず、何か策は無いかと明石へ参ったのです。オオヒコ様やアタル様から何か知恵をいただけぬかと・・。」
カケルは、難波津の様子を詳しく話し、水路作りの苦労も話した。アタルは頭をひねった。

1-10水辺風景.JPG
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