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1-11 見慣れぬ輩 [アスカケ第5部大和へ]

11. 見慣れぬ輩
カケルは、アタルの案内で少し里の様子を見て回る事にした。張り巡らせた水路には、いくつもの水門が作られていた。
「水の調整をしているのです。畑に水を引くときに少しでも楽に済むようと、皆で知恵を出し合って作ったのです。水門を開く場所を決めることで、全ての畑に水を引くことができるようになりました。それに、荷を積み出すときも水嵩を上げる事で楽になります。」
一通り、里を回り、最後に明石川から水を引き入れている水門に辿りついた。カケルが淵辺に居たとき、最初に手掛けた場所だった。しかし、その時と比べると随分と頑強な造りに変わっていて、単なる水門ではないようだった。水門には、男が二人、門番をしていた。
「あれは?」
「水門の見張りです。・・・水門は、川から水を引き入れるだけの役目でしたが・・近頃は、里を守る為に、ああやって見張りを立てているのです。」
アタルはそう言うと、水門の脇に座っている男達に声を掛けた。
「変わりは無いか?」
「はい。今日は静かです。・・昨日は、姿を見せていましたが・・。」
門番の男は、そう言って、対岸を見た。アタルもじっと対岸を見ていた。
「何か、襲ってくるのですか?」
カケルが訊くと、アタルが困ったような表情を浮かべて言った。
「ええ・・近頃、対岸から小舟を出して、ここの様子を見に来る者がいるのです。・・いえ、近隣の里の者ならば構わないのですが・・見慣れぬ服装で、大きな太刀も携えているのです。」
「では、どういう輩だと?」
「オオヒコ様から聞いた話ですが、遥か昔から、この川を上った山地に、忍海部(おしんべ)という一族が住んでいるらしいのです。周囲の里とは隔絶していて、どんな者かも見当もつかないのです。おそらく、そこの者が様子を探っているのではないかと・・・。」
「何か、危害が加えられると?」
「判りません。・・以前ならば、怖れる事もありませんが、今は、淵辺には、多くの民が暮らし、米や黍もたくさんあります。奪われることにも用心せねばなりません。ですから、こうやって門番を立てて、様子を見ているのです。」
カケルは、アタルの話を聞き、ふと、生まれ故郷のナレの村の事を思い出していた。
ナレの村も、大陸から逃げるように隠れ住み、一族の秘密を隠す為、周囲から隔絶していた。しかし、周囲の様子を探る為に、若者がアスカケに出る風習があったのだ。もしかしたら、対岸に現れたのは、そうした者ではないかと考えたのだった。

その日は、里を一通り見た後、アタルの館で一夜を過ごした。
里の者もやってきて、カケル達のその後の様子を聞きたがった。カケルは、難波津での事を、皆に聞かせた。アスカが病を治す仕事に熱心になっている様子を話すと、ユキも喜んで聞いた。
朝餉を終えた頃、水門の門番からアタルのもとへ知らせが来た。対岸に男達が現れたというのだった。アタルとカケルはすぐに、水門に向かった。
対岸に浮かんでいる船には、確かに、大きな太刀を構えた屈強な男が二人乗っている。じっと水門の様子を見ているようだった。アタルとカケルが現れた様子に気付くと、男達はすぐに船を上流へ進め始めた。
「どうやら、襲ってくるような様子ではありませんね。」
カケルが言うと、アタルが答えた。
「・・何の為に、ああやって、こちらの様子を探っているのでしょうか?見た限り、かなり強そうな男達でしたが。」
「・・その・・忍海部(おしんべ)の里は、ここから近いのですか?」
カケルの問いにアタルは言った。
「あそこに見える尾根の上にあると聞いています。船で上れば一日も掛からず着けるところのようです。ここらの者は、皆、怖れて近づきませんから・・確かな事は判りません。」
「まあ・・用心に越した事はありませんが・・それほど怖がる事もないのではありませんか?」

カケルは、一旦、館に戻ると、アタルやユキに礼を言い、明石に戻ることにした。まだ、河内の内海の水害を防ぐ手立ては見つかっていなかったが、三日で戻るという約束をアスカと交わしていた為、すぐに戻らねばならなかった。
明石のオオヒコも、カケルに教えるほどの策は浮かんでいなかった。
「力になれず、申し訳ない。ただ、海を操るのは容易い事ではない。この港を作る時には潮を満ち引きを上手く使えたが・・水を吐き出させるというのは、また難儀な事。私も、何か策が無いか考えておこう。また、いずれ、難波津にも行かせて貰うことにしよう。」
「ときに、オオヒコ様。近頃、姿を見せるという屈強な者たちの事をなにかご存知でしょうか?」
カケルは、今朝、現れた男達の事を尋ねてみた。
「ああ・・おそらく、忍海部一族であろう。・・今まで姿を見せたことはなかった。私と同様、韓からやって来たらしいのだが・・何しろ、外界と隔絶したくらしをしているので・・よく判らぬのだ。」
「ここには現れませんか?」
オオヒコは首を横に振った。だが、突然思い出したように言った。
「少し前だったか・・・上流から船が流れてきた。誰も乗っていなかったが、剣が一つ置かれていたな・・・・おい、あれを持ってきてくれ。」
オオヒコは配下の者に指図した。

1-11水郷.jpg
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