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1-12 神剣 [アスカケ第5部大和へ]

12. 神剣
すぐに、配下の者が剣を一振、持って現れた。
「これが、船の中に置かれていたのだ。ハガネで出来ている。ここで見るのは、銅剣ばかりだから、おそらく、よほどの物に違いないと思い、こうやって保管しているのだ。」
「これが、上流から流れてきたのですか?」
「ああ。船も少しここらのものとは造りが違っていた。あちこち傷んでいたから、壊してしまったのだが・・・韓舟とも違うようだから、おそらく、忍海部一族に関わる物ではないかと思うのだが・・・。」
カケルは、目の前に置かれた剣をまじまじと見つめた。確かに、剣はハガネで出来ていた。それもかなり精巧に作られている。ふと、柄の紋様が眼に入った。どこか懐かしい網目模様が施されている。カケルははっと気付いた。ナレの村の祭壇に祀られていた神剣の紋様とよく似ている。もしや、忍海部一族は、ナレの一族と関わりがあるのではないかと思った。
「どうされた?」
オオヒコの問いにカケルは、自分の考えを話した。
「私は、忍海部の一族のところへ行ってみます。もし、我が一族との関わりがあるのなら、訊ねてみたいことがあるのです。オオヒコ様、この剣、私に預らせてもらえませんか。この剣が、忍海部一族のものならば、おそらく、これを探すために姿を見せたに違いありません。これを返しに行きたいのです。」
オオヒコは、考えた。剣を戻す事はやぶさかでは無いが、忍海部一族がいかようなものか見当もつかず、カケルの身が案じられた。しかし、このまま、見慣れぬ男達が時折姿を見せ、民が不安がるのも困ったことだった。
「難波津に戻るのが遅くなりますぞ。」
「難波津へ、使いをお願いいたします。必ず戻るからとアスカに伝えていただきたい。・・私は、やはり、会いに行かねばならぬような気がするのです。」
オオヒコもしぶしぶ賛同した。そして、伴をつけて、カケルを送り出すことにした。
「この者は、ヒロと申し、山猟師だったゆえ、あの辺りの山は良く知っております。どうぞ、道案内に使って下さい。」

カケルは、ヒロを伴って明石川の畔を陸路で上っていった。
ヒロは、カケルと同じくらいの歳の男であった。山猟師らしく、腕も足も太く力も強そうだった。髪を頭の天辺で縛り、背丈もカケルと同じほど大きかった。鹿の皮を衣服にして、太くて大きな弓を持っている。明石で預った剣は布に来るんで、ヒロが背負った。
川沿いを半日ほど歩くと、前方で川が二手に分かれていた。そして、その分かれ目辺りまで尾根が伸びている。
「あの山の奥に、忍海部一族の里があります。一度だけ、山に迷い込んで里近くまで足を踏み入れたことがありました。・・不思議なのですが・・真夜中だというのに、煌々と明かりを灯して何か仕事をしているのです。それも、皆、裸同然で、・・身体も真っ赤な色をしていて・・人とは思えぬ様子でした。」
「どんな仕事を?」
「そこまでは判りませんが・・何かを盛んに槌で叩いているようでした。」
ヒロはそう言うと、左手から流れ下る川に沿って進む道を案内した。二人は、尾根に上がる道を探しながら、川を遡っていく。鬱蒼と茂る草木、山肌は岩がごろごろしていて、上る道がなかなか見つからなかった。日暮れ近くなり、二人は河畔で火を起こし夜を過ごす事にした。静かな夜だった。火を絶やすと、獣に襲われる危険もあり、交代で眠りに着いた。

明け方近くだった。突然、数人の男がばたばたと足音を立てて、山を下ってくるのがわかった。カケルは、すぐに足音に気付いたが、横になったまま静かにしていた。
赤い色に染めた衣服を纏い、剣を手に恐ろしい形相で二人を取り囲んだ。しばらく、男達は、二人の様子を見ていた。そして、一人の男が、剣を抜いて、カケルの顔先に突きつけた。
「おい、起きろ!」
その声に、ヒロが驚いて飛び起きた。そして、手元にあった棒切れを掴むと、男達の前で構えた。
「お・・お・・お前ら、何者だ!」
ヒロは、強そうな男達を前に、震えながら叫んだ。取り囲んでいた男達も、その声に驚いたのか、いきなり剣を抜いて構えた。カケルはゆっくりと起き上がると、その場に胡坐をかいて座り、先ほど声を掛けた男に深く頭を下げた。
「ご無礼をお許し下さい。私は、カケルと申します。伴は、ヒロ。明石の者でございます。」
カケルの態度を見て、ヒロも棒切れを投げ出して、カケルの横に座り込んだ。
「そなたも明石から来たのか?」
剣を突き出した男の口調は、意外に優しかった。
「私は、九重より旅をしている者。今は、難波津の摂津比古様のもとに居ります。」
カケルは隠すことなく、身の上を話した。
「こんなところに何の用なのか、ここらには里の者は寄らぬはずだが・・。」
男の問いに、カケルは言った。
「近頃、淵辺の辺りに、見慣れぬ者が姿を見せ、不安がっておりました。おそらく、忍海部の一族の方々であろうとお聞きし、参りました。」
「見慣れぬ者か・・・」
カケルは、脇にあった布包みを手に取った。
「これが明石の港近くに流れ着き、きっとこれをお探しなのではないかと思い、お戻しせねばと思った次第です。」
カケルはそう言うと、布包みを開き、剣を取り出した。


1-12岸辺と船.jpg
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