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1-13 忍海部一族 [アスカケ第5部大和へ]

13. 忍海部一族
男は、カケルが大事に奉げるように取り出した剣をじっと見た。二人を取り巻いていた男達が色めき立った。
「おお、これこそ探していた剣・・・。」
男は、カケルの手から剣を受け取り、じっくりと眺めた後、再び、カケルに聞いた。
「そなた、何故、これが我ら一族の物だと思ったのだ?」
カケルは男の言葉に答えた。
「その剣は、この辺りの里には作れぬものです。明石のオオヒコ様の話では、誰も乗っていない小舟が皆と近くに流れ着き、中にはこの剣があったと聞きました。剣を持ち出された方の身に、何か起きたのだろうと・・。」
「そうか・・・判りました。そなたの言われるとおり、これは我が里のもの。方々を探しておりましたが・・なかなか見つからず、困っておりました。礼を申します。」
「ひとつ、お伺いしても宜しいですか?」
剣を布に終い始めた男に、カケルは訊いた。
「その剣に刻まれた紋様は、私の村の神剣に刻まれたものとよく似ているのですが・・」
男は、カケルの言葉に驚き、沈黙した。ただの偶然で、似た紋様を刻む事などあり得ない。
剣を届けただけでなく、その紋様にまで触れるとなると、そのまま帰す訳にはいかないと考えた。
「このまま、我らとともに里へおいで下さい。そこで、お話を伺おう。」
伴をしてきたヒロは、明石へ戻り、カケルが忍海部一族とともに山に入って行った事を伝えるように言われ、一人戻って行った。

カケルを伴い、男達は、山へ分け入って行く。道はない。茂みの中を潜るようにしながら、急な斜面を登っていく。まだ、日は昇り始めたところだが、山の中は薄暗く、深い深い森が続いている。かなり、長い間、山中を歩いたように感じた。ようやく、山の尾根に達すると、木々の間に石を敷いた道があった。そこからほんの僅かで、忍海部一族の里に着いた。
丸い形の竪穴式の住居が、木々の間に埋もれるように散らばっていて、ざっと20ほどの住居があると思われた。いずれの家の周りにも、獣避けと思われる、濠と柵が作られていた。衣服は、獣の皮を剥ぎ鞣して作ったものや、木綿のような物で、ナレの村の衣服よりも粗末であった。田畑は無さそうで、おそらく狩猟と木の実を集めているのではないかと思われた。カケルは、男の後について、里を抜けた。
男は、里から少し山を分け入ったところにある、社へ案内した。大きな杉の木立の中を切り開いて作られた少し開けた場所に、何本もの太い柱を立て、その上に、人の背丈の倍以上の高さのところに設えられた社があった。
社の支柱に垂れ下がった長い梯子を伝って上ると、部屋の中から数人の話し声が聞こえた。
「巫女様、今、戻りました。」
男はそう言うと、深く頭を下げ部屋の中へ入っていく。カケルも続いて中に入ると、そこには4人の男が両脇に座り、一番奥の祭壇の前には、真っ白な装束の巫女が座っていた。カケルは、部屋の中を見て驚いた。まるで、ナレの村の館そっくりであったからだ。カケルも、男と同じように深くお辞儀をして部屋の中に入り、男の隣に座った。
両脇に座った男達は、カケルの様子を探るように見つめていたが、何も語らず、巫女の言葉を待っているようだった。
男は、巫女の前まで進むと、カケルから受け取った剣を大事そうに掲げると、巫女の前に差し出した。そして、再び深く頭を下げると、低い声で言った。
「剣が戻りました。」
「おお、レンよ、よくぞ、剣を見つけた。これで我が一族も安泰であろう。」
巫女はじっと眼を閉じたまま、厳かな声で言った。
レンも男達も巫女の言葉に深く頭を下げた。
「この者が、持参しました。我が一族の剣であろうと考えたようです。」
レンは静かに言った。巫女は、ふと顔を上げて言った。
「その者、名は何と言う?」
「我が名は、カケル。九重の奥、ナレの村の生まれでございます。」
「九重の生まれとは珍しき者じゃな。して、何故、我が一族の剣だと考えたのだ?」
カケルは、周囲を一度見回してから、言った。
「アスカケの旅の途中、縁あって、明石のオオヒコ様より、剣の事を聞きました。ハガネで出来た剣、さらに柄に施された紋様から、これは神剣であろうと考えました。この辺りには、ハガネの剣を持つ里などありません。おそらく、忍海部一族の方々がお守りになっていた神剣であろうと思ったのです。」
「柄の紋様?」
「はい、我が一族にも、神剣がございます。その柄にも同じような紋様がありました。」
「ナレの村と申したが・・・そこではハガネ作りをしているのか?」
巫女は訝しげに訊いた。
「いえ・・遥か昔、我が一族の祖が大陸より逃れ、高千穂の峰の麓に隠れ里を作りました。以前は、ハガネ作りも行なっていたようですが・・今ではそれも絶えてしまいました。」
「大陸より逃れて、九重に隠れ里とは・・・祖の名は何と言う?」
「伝え聞いた話では、ニギ・・いえ・・殷義様と申されます。」
カケルの話しを聞いた後、巫女はじっと眼を閉じた。
そして、しばらく沈黙した後、ぽろぽろと涙をこぼし始めたのだった。脇にいた男達も、巫女の異変に驚きを隠せなかった。

1-13石畳の道.jpg
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