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1-15 明石川の絆 [アスカケ第5部大和へ]

15. 明石川の絆
五色の石は、目の前の鹿の骨や木の実の中を転がった。レンたちは、巫女の言葉を待った。
「時が来たようだ。・・祖を同じくするナレの若者が、神剣を携え我が里を訪れたのは、おそらく、我が祖のお導きであろう。・・レンよ、カケルと供に、里を降り、淵辺や明石へ向かうが良い。そして、我が一族との絆を作ってくるのじゃ。」
「巫女様・・本当に宜しいのですか?」
レンの隣にいた男が今一度訊いた。
「皆も判っておる筈じゃ。ここ数年、山は貧しく、食べる物を手に入れることもままならぬ様になっている。一族の者たちも、皆、ひもじい思いをしておる。カケルを信じ、我が一族の行く末を託してみようでは無いか。」

翌朝、カケルはレンのほか数名の男に導かれて山を降り、小船で淵辺へ戻った。淵辺ではカケルが忍海部一族の里へ入ったという知らせが届いていて、皆、心配していた。
水門の門番がいち早く、山から下ってくる小船を見つけ、アタルに知らせていて、カケル達が水門に着く頃には、アタルたちが水門で出迎えた。
「忍海部一族のレン様でございます。」
カケルが紹介し、レンはすぐにアタルの館へ案内された。レンは、アタルの館から淵辺の里を見下ろして、ため息をつきながら言った。
「これほどにも豊かな里があるとは・・・。余るほどに、米や黍が作られている。皆、穏やかな顔をして仕事をしている。なんと素晴らしいところだ。」
それを聞いたアタルが言った。
「この里もほんの数年前までは、時折、川が溢れ一面が沼のようになり、住める所ではありませんでした。カケル様のご尽力で、このような里になれたのです。」
「カケル様が?」
「はい・・はるばる九重の果てから旅をされ、我が里だけでなく、邪馬台国や、アナト国や伊予国にも安寧をもたらされたお方なのです。神々しきお力を持っておられるお方なのです。」
レンは、アタルの話に再び驚いた。忍海部の里では、一族と契のある者とだけしか知らず、淵辺へ来るまでも、カケルの提案を半ば信じていなかったのだった。
「今は、難波津で、この国の行く末を担われるべく働かれていると聞いております。都の皇君ともご縁があるとの事。カケル様のお力はますます大きくなり、この国をきっと良き国に作られるはずでしょう。」

館に入ると、広間には、ユキが赤子を抱いて待っていた。他にも、淵辺の主だった者たちも集まり、忍海部のレンの話を興味深く聞いた。レンは、皆に一族の全てを話した。
「我らとて、わからぬが故に怖れておったのだ。互いに素性が判れば、手を繋ぐ事は容易な事。明石川の畔に生きる者として、これより手を携えて参りましょう。なあ、皆の衆、良いであろう。」
アタルの言葉に、集まった者たちは拍手をした。
「とりあえず、我が里から米と黍を運びましょう。」
ユキの提案に、アタルはすぐに、男たちに指図した。レンは戸惑って言った。
「しかし・・我らから引き渡せる物がありませぬ。」
「何を言われる。ご心配には及びません。長き付き合いになりましょう。いずれ、我らが困った時にお助けいただければよいのです。」
「しかし・・・。」
カケルは二人のやり取りを聞いて言った。
「レン様、忍海部の皆様は、ハガネを作られておるでしょう。・・それで、田畑を耕す道具を作ってもらえませんか?・・見てのとおり、ここでは田畑を耕す道具が足りません。道具があれば、もっともっと多くの田畑が出来るはずです。如何でしょう?」
レンは驚いた。カケルが里へ来た時、ハガネ作りは見せていない。いや、一族の秘密にすべき事であり、淵辺でも話してはいないのだ。
「何故、ハガネ作りのことを?」
「済みません。供をしていたヒロが、一度道に迷い、忍海部の里近くへ行ったことがあり、そこで見た様子が、我が里のハガネ作りの様子に似ていたものですから・・違いますか?」
「いえ、その通りです。そのために、我らは隠れ住んで居ったのです。ハガネは人を殺す剣を作る技でもあります。故に、大陸でも戦に駆り出され、一族はたびたび難儀をしたと言い伝わっておりましたゆえ、秘密としていたのです。」
「もはや、この地では心配など要りませぬ。それに、すでに、大和でもハガネ作りをしていると聞きました。必死に隠してきたことは、もはや無用となっているのです。」
レンは、カケルの言葉に納得した。そして、米や黍と引き換えに、農具を作る約束を交わした。

すぐに、カケルは、レンを連れて明石へ向かった。
すでに、淵辺から明石へ使者が出され、大筋の話は伝わっていて明石のオオヒコも、喜んで出迎えた。明石からも、衣服や魚の干物等が集められ、忍海部の里へ送る事が決まった。
「これより、明石から忍海部の里まで、明石川の畔に住む者はみな一族となりましょう。深き山から、海辺までお互いに手を繋げば、きっと豊かな暮らしが出来ましょう。」
オオヒコは、カケルやレンを前に宣言した。

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