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1-16 友の絆 [アスカケ第5部大和へ]

16. 友の絆
明石川の畔に暮らす者が皆手を繋ぎ、生きていくことを誓い、カケルも安心した。しかし、まだ、草香江の水害を防ぐ手立ては見つかっていなかった。
その日は、オオヒコの館に留まり、もう少し、策はないかを考える事になった。
夕餉を終えた囲炉裏の前でオオヒコが言った。
「カケル様、私も難波津の水害の手立てをあれこれと考えてみましたが・・妙案は浮かびません。」
オオヒコはカケルが出かけた後もあれこれと思案していたようだった。そして、
「ただ、ご覧いただきたいものがあるのです。」
オオヒコは、翌日の朝、船を出して、港を出た。カケルとオオヒコの乗った船は、港から対岸のハヤシの里に向けて進んだ。
「淵辺の水路を作ってから、川の流れも弱まりました。そして、ちょうど一年ほどした頃に、その岬の先が変わっていたのです。・・ちょうど、この辺りです。・・おい、船を止めよ。」
オオヒコは船頭に言うと、対岸まで僅かのところに船を停めた。
「ご覧下さい。ここは以前、西からの潮の流れが強く、広い砂浜が出来ていました。しかし、水路が出来てから、次第に砂が減り、今では淵のようになっております。」
「潮の流れが変わったということですか?」
「ええ・・おそらく、流れ出る水量が減り、潮が強くなり、溜まっていた砂を押し流したのだと思います。」
「潮が砂を持ち去った・・・難波津の瀬戸には砂が溜まっている・・いずれも潮の流れ次第という事ですか?」
「ええ、ですから、難波津でも何かの方法で潮の流れを変えることが出来れば、瀬戸も砂に埋もれずに済むのではと思うのです。ただ・・どうやって潮の流れを変えることが出来るのか・・港を作った私さえ、潮に逆らう術は知りません。」
「そうか・・潮の流れを変えるのか・・・ここは、あの水路がその役を果たしたのですね。・・難波津でも別のところに水路を作ればよいということかも知れませんね。」
「ええ・・しかし・・・淵辺はもともと流れのあった場所。難波津にはそのような場所があるでしょうか?」
カケルは、ふたたび、潮の流れと岬の様子、そして淵辺の水路を思い浮かべて考えた。
「・・きっと、どこかに水路を作れる場所があるはずです。・・難波津に戻り、摂津比古様と相談してみましょう。・・きっと大丈夫です。オオヒコ様、ありがとうございました。」
カケルは、急いで、明石の港に戻り、難波津へ向かう船に乗った。
「カケル様、これより明石川の畔に住む者は、皆、貴方様をお助けする事を誓いましょう。難波津で・・いや、カケル様とアスカ様に何かある時は、必ず使いを遣してください。すぐに、一族を挙げてお助けに参ります。」
オオヒコは、港を出て行く船に向かって大声で叫んだ。カケルは手を振り、難波津を目指した。

夕刻には、難波津の港に着き、急いで、館へ向かった。
カケルが帰還したことはすぐにアスカの耳にも届けられた。アスカは、治療院でいつもと同じように薬を作り、病人の世話をしていたが、帰還の知らせを聞き、すぐに港へ向かった。
アスカは、カケルが出かけた後、何か胸騒ぎを覚え、毎日落ち着かぬ日々を過ごしていた。
女人たちがアスカに身支度をと用意をしたが、アスカは居ても立てもいられず、そのままの格好で港へ走った。
カケルは、ちょうど、船を降り、桟橋で船頭に礼を言っていたところだった。
アスカは、まるで子どものようにカケルに駆け寄ると、そのまま強く抱きついた。
後を追ってきた女人達は驚いた表情でアスカを見ていた。
一番、驚いたのはカケルだった。
「どうした?アスカ。幼子のように抱きついて。私は無事だ。少し帰りが遅くなってしまい、心配掛けたな、済まない。」
カケルの落ち着いた口調に、アスカははっと我に返り、抱きついた事が急に恥ずかしくなり、真っ赤な顔をして俯いた。そして、なにかわからぬ感情がこみ上げて、思わず涙が零れたのだった。

カケルは、アスカとともに、摂津比古の館へ戻った。カケルの明石での所業は、使いの者が逐一難波津に知らされていて、摂津比古も大いに満足してカケルを迎えた。
その夜は、館の広間に、港にいる主だった者達も集めて、カケルの帰還を祝う宴が開かれた。
「明石一帯の者達は、カケル殿の配下のごとく、これから合力してくれるらしいな。」
摂津比古は、酒を飲みながら、上機嫌でカケルに言った。
「配下ではございません。我が友です。・・明石で何か起きれば、私はいつでも明石へ向かうつもりです。」
「ふむ・・友・・か・・良き言葉だ。ならば、難波津も明石の友となろう。・・よし!」
摂津比古は、宴に集まった者の前に立ち、杯を高く掲げた。
「ここに集いし者よ、聞いてくれ。カケル殿が明石一帯の絆を築いた。そして、この難波津とも強き絆となってくれよう。良いか、皆の衆。今日より、ここに集いし者は皆、友である。互いに困った時、助け合う強き絆を作ろうぞ。それぞれの里に戻ったならば、里の者たちに話し伝えるのだ。これより、西海の者は皆、友となり助け合うのだ。良いな。」
宴に集まった者は、摂津比古の言葉に応え、みな杯を掲げ、「おお、友じゃ、友じゃ!」と歓声を上げた。
その様子を見ながら、摂津比古はカケルを笑顔で見つめた。
「まこと、計り知れぬ男だ。カケル殿こそ、新しき国を治めるべき人なのかも知れぬな。」

1-16砂浜と岬.jpg
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