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1-18 松原 [アスカケ第5部大和へ]

18. 松原
「では、皆様、参りましょう。・・まずは、この難波津の有体を見て回ります。」
カケルは、昨夜のうちに用意した大きな板と炭を抱えて歩き出した。
「カケル様、それは何ですか?」
先ほどの大男、イワヒコが訊いた。
「これに、難波津の形を写すのです。難波津すべての形を調べ、水路を掘るに相応しい場所を見つけるのです。」
「私が持ちましょう。」
イワヒコは、不自由な足を引きずりながらも、カケルの横を胸を張って歩いていく。かつての《念じ者》たちは、カケルを取り巻くようにして、意気揚々と館を出て行った。

カケル達は、館を出て、一旦港まで出た。
港では、荷を運ぶ人夫達が、カケルを取り巻く《念じ者》の集団を、手を止めて眺めた。
日ごろは、陽の当る場所に姿を見せようともしなかった者達が、胸を張って港の中を歩いている。
「いったい、どうしたのです?」
港で船に荷を運んでいたイノクマが驚いた様子で、カケルに近寄り訊いた。
「イノクマ様、船出ですか?」
「ええ、そろそろ、鞆の浦へ戻ります。それより、これは一体、なぜこれほどの《念じ者》を従えておられるのです?」
「この者達は、念じ者などではありません。これから、私とともに、この難波津・・いえ、辺り一帯を水害から守る仕事をしてくれる者達なのです。・・イノクマ様、病は治せます。もう、念じ者などと呼ぶのはお止め下さい。みな、ひとりひとり、我らと同じ人なのです。」
カケルの返事に、イノクマは従っている者達を見た。確かに、以前の世捨て人のような虚ろな表情をしているものは居ない。皆、希望に満ちているように見えた。
「カケル様はおっしゃるならば、そうしましょう。港の者達にも伝えましょう。・・で、水害から守るとは・・どういうことですか?」
カケルは、水路を作る策をイノクマにも話した。イノクマは、カケルの途方も無い計画に半ば呆れたが、これまでのカケルの偉業を思い浮かべると、あながち、夢物語とも思えなかった。
「我らも何か手伝えることはありませんか?」
カケルは少し考えてから答えた。
「では・・長い荒縄はありませんか?それと赤く染め抜いた布が欲しいのです。」
イノクマは手下に指図してすぐに荒縄と布を用意した。
「他にも必要なものがあれば言ってください。」
「ありがとうございます。いずれ、お願いすることも出来ましょう。」

カケル達は、イノクマに別れを告げ、港から海岸に沿って東へ向かった。外海は穏やかだった。真っ直ぐ伸びる海岸はずっと砂浜が続いていた。
「ごらんなさい。外海の海岸はずっと砂が続いている。やはり、ここは潮の流れが砂を堆積してできたものです。・・さあ、先へ進みましょう。」
カケルが言うと、イワヒコが言った。
「カケル様、このように炭で真っ直ぐ線を引けば良いですか?」
イワヒコは、出掛けにカケルから預った板に炭で真っ直ぐに線を引いた。
「ええ・・・イワヒコ様、上手いですね。そうやって、見たものを書き留めて置いてください。きっと後で役に立ちましょう。」
砂浜から北の方角には、低い松林が続いている。難波津の館が建つ場所はかなりの高台だったが、港から離れるに従い、徐々に山は低くなっている。
「この先はどうなっているでしょうか?」
カケルが周りの者に訊ねると、ソラヒコという若い男が答えた。
「ほら、あそこに見える山の麓まで、こんな低い木が並んでいます。我らの仲間もその林の中に小屋を作って暮らしています。ご案内しますか?」
「ええ、きっと、その方たちに訊けば、もっと詳しいことが判るでしょう。」
ソラヒコの案内で、松林の中に暮らしているという者達のもとへ向かった。

松林の中で暮らしている《念じ者》は、大挙してやってくる仲間を見て驚いた。
先頭を歩いているのが、摂津比古の護衛として顔を見せたカケルとわかり、皆、小屋から出て跪いて迎えた。

案内してきたソラヒコが、これまでの経緯を仲間に話すと、なにやら集まって相談を始めた。しばらくすると、仲間の一人が顔を上げて言った。
「この先の、さらに低く下がったあたりに、雨が続くと水が溜まるほどのところがあります。」
カケルたちはすぐにその場所へ向かった。松原の中を進む。なだらかな斜面をしばらく進むと、林を抜け、草原に出た。
「このあたりです。」
カケルは、皆の話を聞きながら、地面を少し掘りあげてみた。海岸と同じ砂ばかりだった。立ち上がり、周囲の様子も見た。どうやら、ここが一番低い地である事が判った。

1-18松林.jpg
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