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1-19 大仕事の始まり [アスカケ第5部大和へ]

19. 大仕事の始まり
「ここから、外海と内海までどれくらいあるでしょう?」
おもむろに、カケルが訊いた。先ほど、場所を教えた男が言う。
「半日ほど歩けばどちらの海にも出られる程度で、ここらが一番両方の海に近いでしょう。」
「では、ここで二手に分かれましょう。この赤い布と荒縄を持って行って下さい。できるだけ真っ直ぐ海のあるほうを目指し、縄を張りながら、目印になる木に赤い布を括りつけてください。」
カケルの言葉に男達は顔を見合わせた。
「どういうことなのですか?」
「おそらく、ここに水路を作るのが良いでしょう。どれほどの距離があるか調べます。縄一本の長さで、何本分かを調べるのです。・・それから、海が見えたら、もっとも深い場所も見つけてください。そこに水門を作ります。」
カケルの説明に、男達は二手に分かれた。一方には、このあたりを知っているソラヒコが頭になった。もう一方は、イワヒコが頭を務める事にした。
「カケル様、仕事を始める前に腹ごしらえをしましょう。」
先ほどの集落から、食べ物が届いていて、皆、車座に座り夢中で頬ばるとすぐに立ち上がり仕事を始めた。
カケルが、水路作りに着手した事は、館にも伝わった。
「どうやら、本当に水路を作るようだな・・・どれ、様子を見にいくとするか。」
摂津比古は、知らせを聞いて、配下の者を集めた。そして、遣いに来た者に案内させて、カケル達が仕事を始めた場所に向かった。
カケル達は、荒縄と赤い布で水路を作る場所を決める為の仕事をしていた。二手に分かれたものの、それぞれが海に達するまでは半日以上が必要だった。カケルは、内海へ向かっていたソラヒコたちの少し後ろから、印の付けられた辺りの土地の状態をじっくりと調べた。砂が堆積しているとはいえ、大きな岩や固い土の場所があれば、掘りあげるのには難儀する。数人がカケルを手伝い、できるだけ良い場所を選び、掘るべき場所に次々に目印をつけていった。
夕刻近くになってから、摂津比古が配下の者を引き連れて、カケルのいるところにやって来た。
「ついに始めたのだな?・・どうだ、できそうか?」
摂津比古は、手分けして動いている男達を眺めながら声を掛けた。
「・・今のところはどうにも・・かなり大掛かりになりそうですが・・。」
カケルはそう答えると、頭の中に描いている水路の様子を摂津比古に話した。
「それは良い。ここに大きな水路ができれば、濠にもなる。大和の方から兵が来た時の防御にも使える。是非にも作るのだ。・・良かろう。すぐに人を集めよう、それから、寝泊りできる館も作ろう。賑やかになりそうだ。・・困った事があれば、すぐに言うのだぞ。」
摂津比古は、上機嫌だった。すぐに、水路作りのために必要なものや人夫が集められた。西海にもその知らせが届き、この仕事を手伝えば、食べ物にありつけると聞き、貧しい里から多くの人が集まった。難波津の港には、多くの人が集まり、一段と賑わいを見せた。
カケルは、十日ほど掛かって、ようやく水路を作る場所を決める事ができた。その間は、松原の中で野宿しながら、近くの里から運ばれる食べ物や野鳥の狩りをしながら過ごした。厳しい毎日だったが、カケルに従う者達は生き生きと働いた。《念じ者》と呼ばれ、忌み嫌われ、日陰で生き延びてきた者たちは、役に立てる場所、生きる意味を実感できる場所に居られることが何よりの幸せだった。
ほぼ、内海から外海まで、水路を作る場所は決まった。しかし、それは途轍もなく長く、カケルに従っている者だけの手では、何年掛かるかわからぬほどの大仕事だと判った。
事の大きさにカケルも戸惑いを隠せなかった。皆、呆然としていた頃、摂津比古が多くの人夫を引きつれてやって来た。そして、すぐに、少し離れた高台に、物見櫓と人夫たちが寝泊りできる小屋や炊事場なども作られた。
物見台の上に、摂津比古とカケルが居た。
「これは大仕事だな。」
水路を作る辺りの木や草は刈られたため、真っ直ぐ南北に道が開いたように見える。摂津比古はじっくりと、水路を作る場所を眺めながら、何かを考えている。
「これが出来れば、西海の荷を船のまま都まで運びいれる事もできるな。」
摂津比古は、「よし」と小さく呟いた。
「この地に新たに館を築こう。難波津の港とここと二つに港を作り、もっと大きくしよう。・・そうだ、都に負けぬ大きな里にするのだ。」
摂津比古には、水路を行き交う船とそれを見下ろす館の高楼が見えているようだった。
いよいよ水路作りが始まった。
イワヒコとソラヒコが、カケルの指図を皆に伝える、たくさんの荒縄や杭が揃えられた。集まった人夫たちは、鋤や鍬を手に集まった。かつて《念じ者》と呼ばれた男達は、何人かの人夫をまとめて仕事の差配をしている。幾つもの集団がそれぞれの持ち場を定めて仕事に取り掛かった。水路は、ちょうど真ん中に当る場所から掘り始めた。
砂が堆積した場所だったために、比較的掘り易かったが、深く掘るとすぐに崩れ埋まってしまう。分かれて作業をしているあちこちで、せっかく掘った場所が一日もすれば埋もれてしまうことが続いていた。
「カケル様、今のままでは、水路を掘りあげることは出来ません。何か策を考えねばなりません。」
皆を指揮していたソラヒコがカケルの元へ来て告げる。淵辺で水路を掘った時は、泥濘の中で苦労したが、ここでは別の苦難が待っていた。

1-19砂丘.jpg
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