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1-20 知恵と絆 [アスカケ第5部大和へ]

20. 知恵と絆
「主だったものを集めてください。」
カケルは、作業の頭を務めている者を集めた。皆、掘ってもすぐに崩れる事態に、難儀をしている表情だった。
「今のままでは水路を掘りあげることはできないでしょう。やり方を変えねばなりません。」
集まった男たちは、カケルの言葉を待った。
「水を引き入れるためには、水路は内海の水面よりも深くせねばなりません。それには、今より更に深く掘らねばなりません。しかし、深く掘り下げれば壁面が崩れてしまいます。杭を打ち込んでも支える地盤が脆く、すぐに倒れてしまうでしょう。」
「では、一体どうすればよろしいのでしょうか?」
頭の一人が訊くと、カケルは首を横に振り答えた。
「今、私にはそれを解決する策がありません。」
皆、意気消沈した表情だった。集まった頭の一人、かなりの年配の男がふと思いついて言った。
「まっすぐ掘ると崩れてしまいます。崩れぬように斜めに掘り、表面を固めればどうでしょう。昔、我が里で長の墓を作る時、土盛りをして表面に石を並べ、押し固めて崩れぬようにしておりました。・・・ただ、これだけの水路となると・・・。」
カケルはその男の提案を聞いて言った。
「確かに、全てに石を敷き詰めるのは・・難しいでしょう。」
それを聞いてソラヒコが言った。
「ですが、緩やかな斜面にすれば崩れにくくはなります。今よりも・・倍・・いや3倍ほどの巾に広げてはどうでしょうか?」
「そうなると・・今よりも更に人手が必要だぞ!」「いつまで経っても先へは進まぬ!」
ソラヒコの提案に、集まった頭たちが思い思いに言い始めた。皆、随分疲れて苛立っていたのだろう。騒ぎが大きくなった頃に、イワヒコが遅れてやってきた。集まった男達が言い合いをしている様子を見て、イワヒコは驚き、大声でどやすように言った。
「何を騒いでいるんだ!」
皆、イワヒコの声に静まり返った。
ソラヒコが一通り説明すると、イワヒコがカケルに向かって言った。
「とにかくやってみましょう。このまま言い合いをしていても限が無いでしょう。・・俺のところでやってみます。それでどんな具合か確かめてみましょう。」
イワヒコは、集まった頭たちを引き連れて、自分たちが受け持っている場所に戻って、すぐに仕事を始めた。すでに掘っている場所から、さらに巾を広げ掘っていく。崩れそうになる場所は斜めに掘り、水をまき押し固めた。周囲の山から、小石や岩を掘り出して、軟弱なところには捲き、固めた。イワヒコは手際よく仕事を進めた。それを見ていたほかの頭たちも、納得した様子だった。一人、また一人と、自分たちの持ち場に戻り、イワヒコがやったのと同じように仕事を始めた。
二ヶ月ほど仕事が進むと、掘り始めた場所からある程度水路の大きさがわかるようになってきた。物見台に登ると確実に水路は、外海と内海に伸びているのが判る。
「随分進んだようだな。」
摂津比古は、週に一度ほど顔を見せて、仕事の進み具合を見るようになっていた。

ある日、カケルは、摂津比古を内海の畔に案内した。水路が出来上がる前にやらねばならぬ事があったのだった。
「摂津比古様、ここに水門を作らねばなりません。大雨の度に溢れる水をここから外海へ押し流す。ものすごい力が掛かるはずです。かなり頑丈なものを作らねばなりません。」
水際にそのような水門を作る技など知る由もない。摂津比古は、カケルの描いている水門がどのようなものか考えも及ばなかった。
「岩を切り出して並べます。ここら一帯に岩を積み、水路の入口までつなげます。」
「岩を切り出す?・・そのような事ができるのか?」
「はい。忍海部一族の方なら、きっとその技をお持ちのはず。私がお願いに参ります。」
カケルの言葉を聞いて、摂津比古は制するように言った。
「いや、それは私が行こう。明石との契りを交わす為にも、一度、オオヒコ殿にも会っておきたい。忍海部一族の方々とも懇意にしたい。その役は私が担おう。」
すぐに、摂津比古は船を出し、明石へ向かった。三日ほどで、摂津比古は戻ってきた。
忍海部一族の男が十人ほど船に乗っていた。そして、明石からオオヒコも手伝いにきた。
「カケル殿、また大きな仕事をされているようだな。」
オオヒコは再会を喜んだ。
「港を作る時、私も難儀した。我らは、海の中の石を運び、積み上げ、足場を作り仕事をした。きっと何か役に立つと思ったのだ。」
オオヒコはそう言うと屈強な男を数人紹介した。
「水の中に入る仕事なら我らに任せてくだされ。魚のごとく、潜り仕事をします。」
忍海部一族の男たちは、見慣れぬ道具を携えていた。
「カケル様、おかげで一族はみな元気でおります。食べ物にも困らずに済むようになりました。熱心に、ハガネ作りも出来ます。さあ、岩切なら我らがやりまする。」
男達は、ハガネで出来た道具を見せた。
「これを岩に打ち込み岩を割ります。どのような形にも割りますゆえ、なんなりも申し付けてくださりませ。」
こうして、水門作りが始まった。

1-20大和川湿原.jpg
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