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2-2 転落 [アスカケ第5部大和へ]

2. 転落
翌朝、夜明けとともに、四人は峠へ向かった。
「あの峠を越えれば、葛城の王君のおわす館はすぐです。」
ハルヒは先を急ぐ様子で、峠へ向かう道を登って行く。後に、モリヒコ、アスカと続き、最後をカケルが歩いた。ようやく、峠の天辺が見えたときだった。
「静かに!」
モリヒコが、ハルヒの背を押して身を屈めた。アスカもカケルもすぐに身を屈め、先の様子を目を凝らして探った。
峠には数人の男の姿が見えた。
「イコマのミコト様の手の者か?」
モリヒコが囁くように、ハルヒに訊ねた。
「いえ・・見知らぬ者です。・・ですが、あの服は、おそらく平群の兵だと思います。」
「いかがしましょう?」
モリヒコはカケルを見た。
「ここで騒ぎを起こすと、葛城には着けぬ。別の道を行こう。」
カケルの答えに、モリヒコやハルヒは周囲の山を見渡した。
峠の下には沢が流れているが、沢伝いの道は険しそうだった。
四人は尾根伝いに山を越える道を選んだ。深い森の中、晩秋に入り草は枯れ始めていたが、道なき道を進むのは容易なことではない。枯れ枝が遮る中を、モリヒコが先頭に立ち、剣で切り開きながらゆっくり進む。大きな音を立てると、山鳥が騒ぎ、里のほうにも知れるかもしれず、少しずつ少しずつしか進めなかった。
急な斜面、足を置く場所もない切り立った崖もゆっくりと進んだ。山の頂上に達した頃には、日暮れになり、火を起こす場所も無く、四人は大きな木の窪みに身を寄せ合い、朝を迎えた。
下りに入ると、さらに厳しい道程だった。アスカもハルヒも疲れきっていた。杉林に入り、すこし歩きやすくなったところで、ふっと気が抜けたのか、ハルヒが、杉の枯葉が積もった急な斜面を転がり落ちた。慌てて、モリヒコがハルヒの衣服の端を掴むと、モリヒコも一緒に急な斜面を転がり落ちていく。
「ハルヒ様!モリヒコ様!」
アスカが転がり落ちていく二人を見て叫んだ。カケルは、とっさに飛び上がり、杉の木立を蹴り、まるで山猿のような速さで、転がり落ちる二人の後を追った。
転がり落ちる先には、大きな岩が見える。このままでは二人とも岩にぶつかり大怪我をしてしまう。その時、カケルの心臓がどくんと音を立てた。すると、手足が獣のように太くなり、髪の毛が逆立った。
「グル・・グルルーッ。」
低い唸り声を発したと思うと、一気に、大岩まで飛び移った。そして、転げ落ちてくる二人の前に立ち、両腕を広げてがっしりと受け止めた。ハルヒは、僅かなかすり傷をおっていたが、大したことはなかった。転がり落ちる途中、モリヒコはハルヒの身体をしっかりと抱きとめていたのだった。モリヒコも、腕に怪我をしていた。
「大丈夫か?」
カケルは、獣人の姿のまま、二人に声を掛けた。
転げ落ちる時強く閉じた眼をゆっくり開いた二人は、恐ろしきカケルの姿を見て、言葉を失った。モリヒコは驚き、剣を抜こうとしたが強い痛みが走り、動けなかった。
「待って!・・それは、カケル様です!」
斜面の上のほうから、ゆっくりと降りてくるアスカが叫んだ。
その言葉に、気が緩んだのか、落ちた衝撃が強かったのか、二人とも気を失ってしまった。

二人が目を覚ますまで、アスカとカケルはその場に留まった。
日が傾き始めた頃に、二人はようやく、目を覚ました。
「驚かせて済まぬ。・・・あれが私の恐ろしき力なのだ・・・。」
カケルは、大岩に腰掛けると溜息をつくように言った。
ハルヒもモリヒコも、どう答えてよいのか判らなかった。その様子を見て、アスカが言った。
「あのお力が、これまでも多くの命を救ってきたのです。」
ハルヒは、カケルのほうを見ることが出来ず、地面に視線を落としたまま、
「いつもあのようなお姿になられるのですか?」
その言葉には、恐怖心がはっきりと感じられた。
「いつもではありません。・・やむなき時だけです。それに、恐ろしいのは外見だけなのです。怖れる事はありません。命を救う為にだけ、あの姿になられるのです。判ってください。」
アスカの言葉に、二人は頷いた。
「さあ、行きましょう。歩けますか?」
アスカが声をかけると、二人はゆっくりと立ち上がった。ハルヒは、モリヒコの怪我を心配し、かばう様に寄り添って山を降りた。この旅の間に二人の距離が縮まったのが、アスカやカケルにも充分に判るほどだった。

中腹まで降りたところで、小さな小屋を見つけた。
おそらく、山猟師が猟のために設えたものなのだろう。何度か声を掛けたが返事はない。四人は、中に転がり込むと、小屋の隅に身体を横たえた。
疲れと空腹で、火を起こす事もせず、そのまま、皆、眠り込んでしまった。

2-2斜面.jpg
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