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2-4 屋敷 [アスカケ第5部大和へ]

4. 屋敷
「とにかく、葛城の館へ向かいましょう。」
泣き崩れたハルヒを、モリヒコが支えるように抱え宥めた。
四人は、アスカが拵えた朝餉を食べると、すぐに館へ向かった。
山を下る途中には、田畑が広がり、小さな家屋が建ち並んでいる集落が見えた。ハルヒは、里の様子を探るように見ていたが、急に振り向いて言った。
「里に出ると、円一族の兵共がいるでしょう。このまま、山裾を南へ向いましょう。」
四人はできるだけ木の影に隠れるようにしながら南へ向かう。
葛城の里に入ると、様子を伺いながら王君の住まいである館へ急いだ。近づくにつれ、ハルヒはただならぬ様子に気づき、ぐっと唇をかみしめた。
目の前に高く見えるはずの館の大屋根が見えない。そして、周囲には、焦げ臭い煙が漂っている。
シシトが教えてくれたとおり、館は焼け落ちていた。
門を入ると、館を支えていた太い柱が数本、鏡面だけが黒く焼けて立っている。
「王君様・・・。」
ハルヒは堪えきれず、その場に蹲り、突っ伏して泣いた。アスカは背中をそっと抱きしめる。
カケルとモリヒコは、焼け落ちた跡を丹念に見て回った。
「葛城の王君はきっと逃げられたに違いない。」
カケルが言った。モリヒコも、焼け跡の真ん中に立ち、呼応するように言った。
「これは、外から射掛けられて燃えたのではありませんね。・・きっと、迫り来る兵を知り、中から火を放ったのでしょう。・・それが証拠に、亡骸が一つもない。きっと王君はどこかに隠れていらっしゃるはずです。」
モリヒコの言葉に、ハルヒは顔を上げ、「どこに?」と尋ねた。
カケルが言う。
「イコマのミコト殿もお傍におられるはずだろう。どこか、身を寄せるところに、心当たりは?」
ハルヒは必死に考えた。
葛城の王君を訪ねて来た者、イコマのミコトが懇意にしていた者、この辺りの里の者・・いろいろと頭を掠めるものの、いずれも決め手がなかった。
「王君は、体調を崩しておいででしたから・・さほど遠くまでは行かれぬはず・・・しかし、この辺の里に居れば、すぐに兵たちに見つかってしまうでしょう。・・判りません・・・。」
ハルヒはそう言うと項垂れた。
「當麻の里とは懇意だったのか?」
カケルはハルヒに訊いた。
「ええ・・シシト様は、幾度か、館へも参られました。・・でも、小屋ではシシト様は何もおっしゃっていなかったのでしょう?」
「おそらく、シシト様も王君を探しておられたのかもしれぬ。・・それに、我らの素性も判らず、何も騙られなかったのかも知れぬ。」
「では、當麻の里へ居られるかも知れぬと?」
話を訊いていたモリヒコが訊いた。
「判らぬが・・近くに潜んでおいでかも知れぬ。・・」
「では、當麻の里へ行きましょう。」
ハルヒは立ち上がった。

「何者だ!」
突然、館の塀越しに声が聞こえた。
振り向くと、塀の上に、男が二人身を乗り出して、こちらを見ていた。円一族の兵であることは、剣を手にしている様子で直ぐに分かった。モリヒコは、咄嗟に弓を構えた。
「殺してはいかん!」
カケルがそう言うのと同時に、モリヒコは弓を引いていた。
モリヒコの放った矢は、男が乗っている塀を居抜き、その勢いで塀はバラバラと崩れた。
「うわあ!」
兵たちは、塀が崩れ落ちるのと同時に、地面に転がった。そして、衝撃の強さに驚き、慌てて、逃げ出した。モリヒコはすぐに男たちの後を追うために門の外へ走り出た。
館から真っ直ぐ伸びる道の向こうに、数人の男達の姿が見えた。先ほどの男は、仲間と思われる兵たちの下へ走っている。
モリヒコはすぐに屋敷内へ戻った。
「大勢の兵達が館のはずれからやってきています、すぐに逃げましょう。」
カケルは頷き、言った。
「モリヒコ、そなたは、アスカとハルヒを連れて、先ほどの小屋へ戻ってくれ。・・おそらく、シシト様はあそこに戻られるに違いない。今一度、話を伺うのだ。きっと、シシト様は、王君の所在をご存知ののはず。」
「カケル様は?」
「囮となり、兵達を遠ざける。・・・すぐに私も小屋へ向かう。迷っている時は無い。さあ、早く行くのだ。頼んだぞ!」
カケルは、そう言うと、アスカを見た。アスカもこくりと頷いた。
カケルは、弓を構え、館の門へ向かった。
「さあ、参りましょう。裏手から、山道へ。さあ。」
モリヒコは、ハルヒとアスカを連れてすぐに屋敷を出た。周りに注意を払いながら、静かに、山裾へ身を隠した。

2-4火事.jpg
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