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2-7 回復 [アスカケ第5部大和へ]

7. 回復
アスカは、葛城王の心の中に大事にされていた母須佐那姫の記憶に触れ、葛城王こそが父であると確信した。そして、アスカは胸元の首飾りを強く握り締め、一心に祈った。徐々に柔らかな光が首飾りから放たれ始め、次第にアスカと葛城王を包み込んでいく。
小屋にある囲炉裏端で、難波津の様子を話していたハルヒやモリヒコは、柔らかな光に気付いた。
「何だ・・一体何が起きたのだ?」
シシトも、イコマのミコトも驚いて、アスカと葛城王を見た。皆、初めてだった。
光は更に強くなり、小屋中を照らし始める。小屋の中にいるシシトたちも光に包まれ、なんとも穏やかな気持ちになっていた。冬の陽だまりのような温かな光、そして、手足からじんじんと命が吹き込まれてくるような感覚、痛みも辛さも全て忘れてしまえるような温かな空間にいるような感覚だった。
しばらくすると、徐々に光は小さくなっていく。はっと皆目が覚めた。
葛城王を見ると、真っ白になっていた頭髪が黒々としている。王は目をカッと見開いている。脇には、アスカが横たわっていた。
「どうしたことだ。あれだけ苦しかったのが嘘のようだ。」
葛城王はそう言うと、ふっと起き上がった。そして、病でやせ細っていたはずの手の平をしげしげと見つめた。
「王君様・・・。」
イコマのミコトはそれ以上声に出せなかった。もはや死を待つばかりと思っていた王が、以前にも増して元気な様子なのだ。
葛城王は、脇に横たわる娘を見つめて、イコマのミコトに尋ねた。
「この者は?」
「難波津より参った、アスカと言う娘です。・・不思議な光を発して・・何が起きたのか判りませんが・・王君様の病を治療すると申して、お傍に座りました。・・おい、アスカ・・いや・・アスカ様、いかがした?」
イコマのミコトはアスカの身体を揺り動かした。しかし、目を覚まさない。ハルヒが近寄り、ゆっくりとアスカを抱き起こす。アスカの顔からは精気が感じられず、手足も冷たくなっている。僅かに小さく息をしているようだった。
「いけません、このままではアスカ様のお命が・・・。」
ハルヒの声に、皆、慌てた。
すぐに囲炉裏に火が起こされ、今まで葛城王が横になっていた床に、アスカの身体を運んだ。
葛城王は、囲炉裏端に座り、シシトやイコマのミコトから、これまでの経緯や、アスカが目の前で、起こした奇跡の様子も聞いた。
「この娘が、我が命を救ったのだな・・・。」
葛城王は横たわるアスカの顔をしげしげと見つめて言った。
「九重の地から参ったというが・・生まれはどこなのであろう。光を以て命を救うとは・・」
それを聞いたハルヒが言った。
「王君様、あの光は、アスカ様の首飾りから発していたようです。何か特別な神の力を封印した首飾りではないでしょうか?」
それを聞いて、葛城王は立ち上がり、アスカの許へ行き、横たわるアスカがしている首飾りを見た。白い首筋に掛かった飾りが、アスカの胸の上に置かれていた。
「こ・・これは・・・。」
葛城王は、首飾りをそっと持ち上げ、じっと見つめた。
「この首飾りは、私が若い頃、須佐那姫に贈ったものだ。その証拠に、この刻印は我が王族の紋様。」
葛城王は、イコマのミコトに命じて太刀を持ってこさせた。太刀を引き抜くと、その刃には、アスカの首飾りと同じ紋様が刻まれていた。
「まさか・・・この娘は、須佐那姫の娘なのか?」
今一度、葛城王はアスカの顔を覗きこんだ。すると、手にしていた首飾りが再び光を放ち始めた。今度は、青い光だった。驚いて葛城王は首飾りをアスカの胸の上に落とした。すると、青い光がアスカの身体を包み込む。アスカはゆっくりと目を開け、起き上がった。
『葛城王君・・いえ、ササギの皇子様・・・お久しぶりでございます。』
その声は、アスカの声ではなかった。だが、葛城王には懐かしい声だった。
「おお・・須佐那姫・・そなた、須佐那姫なのか?」
『再びお会いできる事を切に願い、わが子に託して、守ってまいりました。こうして、ようやくお会いできました。』
須佐那姫が乗り移ったアスカの目から大粒の涙が零れた。
「すまぬ・・本当に済まなかった・・契りを交わし、命に代えてお前を守ると誓っていながら・・出来なかった。許してくれ。」
『良いのです。我が定めです。この子は、私たちの契りの証です。どうか、私と思って大事にしてやってください。』
「・・・我が皇女か・・そなたの思い、しかと受け止めた。命に代えて守ると約束しよう。」
葛城王はそう言うと、強くアスカを抱き締めた。青い光が二人を包み込む。そして、徐々に光は上昇し、やがて消えた。
アスカが我に返った。
「父様・・父様・・。」
今度は、アスカが葛城王を強く抱きしめる。
体の芯のほうで、何か足りなかった欠片が、ぱちんと埋まり、満たされた気持ちになっていた。

2-7青い光.jpg
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