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2-8 葛城王の決意 [アスカケ第5部大和へ]

8. 葛城王の決意
アスカは、ようやく父との対面を果たし、これまでの経緯を葛城王に話した。モシオの里で初めてカケルに出会い、二度目には、アスカケの旅に同行し、九重を回り、邪馬台国を再興したこと。そして、アナトの国、伊予の国、吉備の国と、先々で人々を助けてきたカケルの話しをした。
「そなたにとっては、カケル殿はさぞかし大事な人なのだな。」
「ええ、モシオの里で息を殺して生きていた私に一筋の光を当ててくださいました。新たに命を吹き込んでくださったお方なのです。」
モリヒコやハルヒも、アスカの話を涙を流しながら聞いていた。
「カケル殿を迎えに行かねばならぬな。」
葛城王はそう言ってシシトを見た。
「はい。この里にはたどり着けませぬゆえ、かの小屋まで行かねばなりませんが・・・円の兵どもがうろうろしておるようでは、それも叶わぬでしょう。」
思案しているところへ、當麻の若者が飛び込んできた。
「シシト様、どうやら、沼の方で事が起きたようです。矢羽が飛び交い、男が一人、射抜かれて沼に沈んだとの事です。」
「確かか?」
シシトはその若者に今一度訊いた。
「はい。里の者が兵を捕らえ聞きだしましたゆえ、間違いないと・・。」
「何とした事か!」
シシトは、地面を叩き悔しがった。
アスカはぐっと首飾りを握り締めた。すると首飾りから赤い光が発した。アスカの頭の中に、沼地で横たわるカケルの姿が見えた。
「・・カケル様は・・カケル様は生きておられます。間違いありません。すぐにお救いせねば・・。」
アスカは立ち上がり、小屋を出ようとするのをモリヒコに阻まれた。
「円の兵たちが多数おります。今、出て行ってもどうにもなりません。」
「でも・・カケル様は苦しんでおられます。早くしないと・・。」
モリヒコに掴まれた腕を解こうと足掻くアスカに、葛城王が言った。
「落ち着くのじゃ、アスカ。一人ではどうにもならぬ。」
アスカは、涙を流しながらその場に座り込み、首飾りをぐっと握り締めた。
「シシトよ、何か策はないか。このままには出来ぬ。」
問われたシシトは、イコマのミコトを見た。イコマのミコトも思案している。
はっとイコマのミコトが顔を上げた。
「広瀬の里まで行ければ、手もあります。・・」
広瀬の里とは、當麻の里から山伝いに北へ行き、湿原を抜けた先にある小高い丘に開けた集落だった。平群一族に近しい関係ではあったが、戦が起きて以降は距離を置き、地の利を生かして、砦を築き、どこの一族にもなびかずにいたのだった。
「広瀬の里ならば、話を聞いてくれる者もおるやもしれぬな。」
シシトも頷いた。
「山伝いに行けば、円の兵もかわせるでしょう。・・・私が行きましょう。夕暮れに乗じて湿原を渡れば、おそらく、見つからずにたどり着けるでしょう。」
その策しかなさそうだったが、カケルの容態が心配だった。どれほどの傷を負っているのか、そして、沼地のどこにいるのかも判らない。アスカは心配だった。
アスカの表情を見て、モリヒコが訊いた。
「まっすぐ沼へ向かう方法はありませんか?」
シシトが言う。
「南から沼へ流れ込む川がある。兵さえ居らねば、その川を下れば容易に沼までは辿り付けるが・・。あれだけの兵だ、見つからぬように行くのは難しいであろう。」
「例えば、川の中を泳いでは行けませぬか?」
すでに初冬に入っていた。川の水は身をよじるほどの冷たさである。
「寒さに耐えられれば良いが・・。」
そう聞いて、モリヒコが立ち上がった。
「私は、川を下り沼へ入ります。大丈夫です。真冬の空の下で、何度も明石川を泳ぎ渡っておりました。行かせて下さい。カケル様をお守りせよと一族の命を受けて参りました。このままでは申し訳が立ちません。」
すぐに、モリヒコとイコマノミコトは隠れ里を発った。イコマノミコトは、山中を北へ進み広瀬の里を目指した。モリヒコは、一旦、山中を南へ進み、葛城川を探した。

二人が出て行くのを見届けた葛城王は、シシトやアスカ、そして隠れ里にいる主だった者たちを集めた。葛城王は集まった者をしばらくじっと見つめ、何かを決意したように口を開いた。
「私はこれまで、王権を争う醜い戦を避けてきた。それは大和に住む民の為、これ以上傷つくものを出したくないと考えたからだった。しかし・・・それは間違いであった。・・・邪な思いを抱いた者が大和を・・いやこの国を治めることこそ、一層不幸な民を作る事になると気付いた。私は今こそ、正統なる大王として、大和を鎮め、倭国の安寧のために働こうと思う。」
葛城王の決意に、シシトは頷いた。
「王君様、ならば、我ら當麻一族も戦いましょう。そして、那智一族、伊勢一族にも使者を送りましょう。きっと合力してくれるでしょう。大和の里の中にも、葛城王こそ大王であるべきと考えているところも多い。我らが立てばきっと戦いの狼煙を上げるはずです。」
シシトの指示で、那智や伊勢への使者が発った。

2-8沼.jpg
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