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1-23 乗馬 [スパイラル第1部記憶]

1-23 乗馬
翌朝は、日の出とともに純一はログハウスの修理をした。余り修理すべきところも無かったが、冬の雪に備えて、何箇所かに板を打ち付けたり、ドアの隙間を埋めたりした。ミホが起き出して来た時には、純一は一仕事終えていた。
「おはよう、よく眠れたかい?」
純一は、コーヒーをカップに注ぎながら挨拶をした。
「ええ・・・朝食に・・・え?純一さんが?」
「ああ・・これくらいなら出来るさ。・・・さあ、座って。」
純一は、テーブルに、トーストとサラダとコーヒー、牛乳を運んでくる。一緒に住むようになって朝食はほとんどミホが作っていた。初めて、純一が朝食を用意した。
「何だか、感激しちゃった!」
「こんなことくらいで感激するなよ!・・別荘の修理はもう終わったんだ。今日は、この辺りをのんびり散策でもしよう。」

朝食を済ませるとすぐに出かけた。
別荘地の程近いところに、牧場があった。朝の放牧なのか、白黒の牛たちがのんびりと牛舎から出てくるところだった。二人は記念写真を取った。
それから、林の中を散歩した。鳥のさえずりを聞きながら、木の実を拾ったり、紅葉を始めた木の葉を集めたり、のんびりと過ごした。
途中、少し道に迷いながら、どうにか、開けたところに出てくると、目の前に、馬が数頭歩いている牧場を見つけた。
「馬に乗るか?」
純一はミホに訊いた。
「乗れるかしら?」
「大丈夫さ、慣れれば乗れるはず。行ってみよう。」
そこは、乗馬の練習もさせてくれるラングラーランチという牧場だった。
スタッフの女性が現れて、体験乗馬を勧めてくれた。
実は、純一は以前に乗馬に凝ったことがあった。自宅のアパートから車で1時間ほど、浜名湖にある乗馬スクールに通った事があったのだった。
「初心者の方は、まず、ここで馬に慣れていただいてからです。」
スタッフはそう説明すると、艶やかな毛並みの馬を一頭連れて来た。
「こいつは大人しい馬ですから怖がらなくても良いですよ。さあ。」
そう言って、ミホを先に馬に跨らせた。
「はい、真っ直ぐ背をそらして、前方に視線を持って行って下さい。馬の動きに身体を預けるようにすれば楽に乗れますよ。」
ミホは言われるままに姿勢をとった。
「あら・・綺麗な姿勢・・・初めてとは思えないわ。」
純一も感心した。自分も最初はどうにも姿勢がとれず梃子摺った覚えがある。
「じゃあ、軽く足で・・。」
と女性スタッフが言い終わる前に、ミホは軽く合図をした。馬がゆっくりと歩き始めた。手綱を握り、ミホは真っ直ぐ前を見ている。馬の揺れにあわせて、確かに乗っている。次第に、馬の歩みが速くなっていく。馬場の柵沿いに、ぐるりと1周すると、きちんと純一とスタッフのいる場所に戻ってきた。
「初めてじゃないんですか?」
「どうも違うようですね・・・。」
スタッフの問いかけに、純一も驚きながら答えた。
「あれだけ乗れるのでしたら、林間散策のコースをご案内しましょう。気持ち良いですよ。」

早速、二人はスタッフに先導される形で、牧場の裏手から八ヶ岳に登る林道を歩くコースに出て行った。
「ミホ、大丈夫か?」
後ろから純一が声を掛ける。ミホはちょっと振り返ってニコリと笑顔を見せた。
「馬の上から見下ろし景色って気持ち良いわ。」
木々の間を縫うように、登り道が続く。途中、小さな沢を馬がジャンプする。ミホは見事に馬を操って超えていく。純一の方が苦労しているようだった。折り返しに当たるところで、林間を抜け遠く眼下に広がる景色が見通せる場所に出た。
「ここは見晴らしが良い場所なので、少し、休憩しましょうか。」
先導していたスタッフの女性が馬を下りた。立ち木に馬を繋いだ。
「さあ、どうぞ。」
女性スタッフが、バッグの中から牛乳を取り出して二人に渡してくれた。
見晴らしの良い場所に座り、牛乳を飲んだ。風が気持ち良い。
「どこで乗馬を習われたんですか?とってもお上手なのでびっくりしました。」
スタッフは何気なくミホに尋ねた。
「何処なんでしょうね・・・・。」
ミホが少し沈んだ声で答える。スタッフはミホの妙な答えに戸惑った。
「でも・・この気持ち良い空気。懐かしいんです。きっとここに来た事があるみたいです。」
さらに女性スタッフは妙な顔をしている。純一は、話題を変えようと、「この牛乳はあの牧場のですか?」とスタッフに尋ねた。「ええ」と答えるスタッフに、「さあ、戻りましょう。」と催促した。

「清里の清泉寮にでも行ってみようか?」
一旦、別荘に戻ると、純一が切り出した。
「あそこのソフトクリームが絶品らしいし・・・清里の町で昼食も摂ろう。」
純一は、ミホの同意も得ずさっさと車を走らせる。「ここに来た事があるみたい」というミホの言葉が耳についていて、何か、ミホの身元に繋がる記憶が蘇るのではと言う不安が純一の中に広がっていた。それを払拭しようとして、別の場所へ行きたいと思ったのだった。

八ヶ岳の通称「はちまき道路」を車を走らせて一気に清里の町へ到着した。ブームの頃に比べれば減ったのだろうが、それでも、結構な数の観光客だった。
駐車場に何とか停めて、土産物屋が立ち並ぶ街中を歩いた。タレントの出している店や、地元の農産物の店、いろいろと覘いてまわった。ランチを取った後、清泉寮に行きソフトクリームを食べ、遠く、富士山も見えた。
そのうち、徐々に八ヶ岳の雲が増えてきた。
「夕方には雨になるかもな・・。早めに戻ろう。」
別荘に着くころには、もうぽつぽつと雨が降り出してきた。

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なまけもの

遅くなりましたが…
今年もよろしくお願いします!
by なまけもの (2013-01-06 13:49) 

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