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2-2 遺言状 [スパイラル第2部遺言]

2-2 遺言状
「遺言状?」
純一が訊きなおすと、如月が答える。
「4ヶ月ほど前、社長の上総氏が事故で亡くなりました。」
そこまで言うと、社長がポンと手を打って言った。
「そういえば、ニュースでやってたな。確か、ボート事故だとか・・しかし、自殺だったとも聞いたが・・。」
「ええ、そうです。社長は伊勢湾沖でボート火災で亡くなりました。病気を苦にした自殺だったと警察は結論を出しました。」
純一も、トラックのラジオニュースで聞いたのを思い出していた。
「それが私と何の関係があるのでしょう?」
「ええ・・それが、社長が亡くなった後、社長の私設弁護士が社に現れまして・・・遺言状を提示したのです。そこには、全ての経営権、財産を小林純一氏に相続させるとあったのです。」
「何かの間違いでしょう?・・私は、上総氏なんて一度もあった事も無い。どこか、違う人物の事でしょう。」
純一は余りに突飛な話しに信じられない表情を浮かべて言った。
「ええ・・私どものどういう関係なのかわからず苦慮しました。・・何しろ、我が社の総資産は一千億円以上です。ほとんどが社長名義ですから、遺言状があると言っても簡単に認めるわけにはいきません。」
「そりゃあ、そうだ。」
社長が変なところで突っ込みを入れた。
如月は少し不快な表情を浮かべて続ける。
「・・当初は、その遺言状の真偽のほどを調べました。何しろ、突然、私設弁護士と名乗る者が持ってきたものですから。しかし、確かに社長が残されたものに間違いありませんでした。」
如月は、上総CSの顧問弁護士である。通常なら、如月がすべき仕事なのだ。社長からの信用がなかった事を証明されたようなものだった。プライドが傷ついた事は、その口ぶりからも伺えた。

「でも、同姓同名の小林純一なんて、探せばいくらでもいるでしょう。きっと何かの間違いです。」
「いえ。遺言状には、あなたの名前だけではなく、住所や勤務先が細かく書かれていました。ここの会社の社長の名前も正しかった。それだけでは在りません。あ・・いや・・・。」
如月はそこまで言いかけて話を止めた。
「どうしたんです?」
「いや・・いずれにしても、あなたに間違いないんです。私どもとしても、財産目当てに、社長に取り入った輩ではないかとも考え、その後、あなたを調べさせていただきました。」
「調べた?」
「ええ」
それを聞いてミホが呟くように言った。
「アパートの前に居た車・・ひょっとして・・・。」
「お気付きでしたか・・・探偵社に依頼して身辺調査をしておりました。・・小林さんのバックに怪しい者は潜んでいないかとも思いまして・・念には念を入れて調べさせていただいたのです。しかし、気付かれるなんて・・・。」
「そんな・・・。ひょっとして、八ヶ岳の別荘でも?」
「八ヶ岳の別荘?いえ・・そのような報告は受けていませんが・・。」
「そうですか。」
「八ヶ岳で何かあったのですか?」
「いえ・・関係ないなら良いんです。」
純一は、自分が調査されていると聞き、不快感を露にしていた。

「申し訳ありませんでした。しかし、我が社の存続に係る重大な事なのです。ご容赦下さい。」
如月は頭を下げた。そして、
「調査の結果、あなたは清廉潔白な方だと判りました。社長と特別な関係で無い事も良く判りました。それで本日こうして伺った次第です。」

如月の話を聞きながら、純一は、ほっとしていたが、突然の話に至極困惑していた。
「それで・・・その遺言状に基づいて、私は・・その・・上総CSを引き継ぐ事になるというんですか?」
純一の問いに、如月は少し間を置いて答えた。
「ええ・・遺言状に基づき、全てを相続していただく事になります。」
「そんな馬鹿な・・何も知らない赤の他人がどうしてそんな事になるんです。」
「遺言状にそう書かれているのです。・・法的にも有効なのです。」
如月弁護士は少し事務的に答える。
「・・そうだ、相続権を放棄します。そうすれば良いでしょう?」
「確かに、法的にはそういう選択肢もあります。相続権放棄の書類を作成していただければ有効でしょう。」
「じゃあ、そうします。その為に来られたんですね?」
「いえ・・違います。・・私どもとしては、あなたに相続していただき、我が社の経営をお願いしたいのです。」
「そんな無理ですよ。・・私はトラック運転手です。会社の経営なんて出来るわけが無い。それにそうする恩義も無い。どうして自分の生き方を勝手に作られた遺言状一枚で狂わされなきゃいけないんです。・・もう帰ってください。・・相続権放棄の書類だけいただければ、すぐに署名します。それで終わりです。さあ、帰ってください。」
純一は立ち上がり、如月にぶちまけるように言った。
「いえ・・是非ともあなたには我が社においでいただきます。そうしないと、我が社の社員も路頭に迷う事になる。今のままでは立ち行かなくなるんです。どうかお願いします。」
如月も引かなかった。
二人は睨みあったままとなった。
後ろで聞いていた奥さん、ミホもどうしてよいか判らずにいた。


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hajime

いつもご訪問・niceありがとうございます。
本年もよろしくお願いします。
by hajime (2013-01-13 14:53) 

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