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2-8 秘密の部屋 [スパイラル第2部遺言]

2-8 秘密の部屋
「如月!大丈夫なんだろうな!」
敬二郎が強い口調で問いただす様子が見えた。如月は、片手を上げて軽く受け流すように何か言ったが聞き取れなかった。すると、敬二郎が妻の里見と顔を近づけてひそひそ話をし始めた。そこへ、娘もやってきて話に加わったようだった。夫である伊藤守彦はそこへは加わらず、一人、窓の外を眺めている。如月は、年配の弁護士と何か小声で話をしている。時々、年配の弁護士が謝罪するように頭を下げている。
映像は、先ほど乗り込んだエレベーターのあたりから撮られているようだった。皆、時々、カメラの方へ視線を向けるので、そう想像できた。
「社長の開発した新システムを待っているんだな。・・・しかし、一体どういうものだろう・・・。」
純一がそう呟くと、手元のコントローラーの画面が切り替わった。
画面には「メビウス」の文字がオレンジ色に浮かんでいる。横にいるミホに見せようと、ミホを見ると、いつの間にか眠っている。
純一はそっと画面に触れてみた。数秒間は何も起きなかった。「なんだ・・単なる表示か・・」と思ったところで、座っていたソファーの後ろに球状の物体が現れた。
球体の上部カバーがゆっくりと開いた。中には、シートがあった。ミホをソファーに残して、純一はそのしーとに移った。ゆっくりとカバーが閉まり暗闇となった。少しの間、暗闇の中にいたが、すぐに灯が点いた。そこには、ぐるりと囲む形で大型のスクリーンがあり、前方に、ぼんやりと赤く光る球形の物体が置かれている。その球形の物体の光は、人間は呼吸するように明るさを変える。
「よく来てくれた。」
どこから聞こえるのかわからない、狭い空間の中で男の低い声がした。
「君がここに来たということは、私はすでに死んでいるということになる。」
声の主は、亡くなった上総英一だった。
「君は多くの疑問を抱えているだろう。なぜ、自分が上総CSの相続人に指名されたのか。これからどうすれば良いのか。そして、私の開発した新システムとは何か。如月やほかの役員は信用できるのか。・・・すべてに答えるべきなのだろうが、それでは、君にここへ来てもらった意味がない。」
純一は、録音されたものが再生されたのだと思っていた。だからこそ、何も答えなかった。
すると、スクリーンの前面に男の顔が現れた。
「私が上総英一だ。・・・どうした?・・ああ、これは録画だと思っているのだな。違うのだ。これは録画ではない。その証拠に・・ソファーで眠っている女性。確か、彼女の名はミホと言ったようだな。・・・浜辺で見つけたのだろう?」
純一は驚いた。
「録画でないなら一体なんなのですか?」
その問に、スクリーンの英一がニヤリと笑ってみせた。
「これこそが、私の開発したメビウスなのだ。人工知能とでも言おうか・・いや、それをも超えている、
新たな命というべきものだ。」
「人工知能?・・・命?」
純一は想像できなかった。
「君の目の前にある球形の物体のことだ。・・これまでのコンピューターとは全く違う次元の代物だ。人間の脳に近い。ありとあらゆる情報を吸収していく。そして、意志を持っている。私は、10年もの歳月をかけてメビウスを作り出し、私の情報を全てインプットした。今、メビウスは私そのものとなっているのだ。」
「そんなモノができるのですか?」
「ああ、現実にここにある。これがあれば、肉体が滅んでも精神を残すことができる。私は生きていた時と同様に、考えることができる。永遠の命を得たのと同じだ。」
まさにSFの世界だった。しかし、純一はきちんと受け止めた。いや、それ以上に強く興味を見せたのだった。自らもコンピューターを組立て、プログラムを作り、動かすことが秘密にしてきた生きがいでもあった。目の前にはそれを超える素晴らしい発明がある。原理を知りたかった。
「一体どうゆう構造なのですか?」
「いや・・それはまだ教えられない。・・君が私の願いを叶えてくれれば教える。」
「あなたの願いとは?」
スクリーンの英一は少し考えている表情になった。
「私はすでに死んでいるんだな。」
「ええ、ボート事故で亡くなったと如月さんに聞きました。病気を苦にした自殺だったとも。」
「馬鹿な!これほどの発明をしているのだ。資産だって到底使い切れぬほどある。なぜ自殺せねばならないのだ。・・・殺されたのだ、きっと。」
「殺された?」
「ああ、きっと上にいる奴らに殺されたはずだ。私の願いの一つ目は、私の死の真相を解明してもらいたいということだ。」
「判りました。・・・・私から一つ訊いても良いですか?」
「なんだ?」
「どうして、私が相続人に選ばれたのでしょう?」
「純一こそが、上総CSを全て受け継ぐべき人物だったからだ。」
「しかし・・・私はあなたを知らない。上総CSとは無関係です。なぜ受け継ぐべき人物なのですか?」
そこまで言うと、急にアラーム音が鳴り始めた。
「何が起きたんですか?」
「これがメビウスの欠陥なのだ。大量の電力を必要とする。そして、大量の熱を発する。・・君にはこの欠陥を修正してもらいたい。それが二つ目の願いだ。・・。」
スクリーンの英一はそう言うとふっと消えた。
「再起動まで12時間が必要です。」
無機質なアナウンスが流れ、上部のカバーが開いた。純一はシートから立ち上がり、メビウスの構造を知りたくて、周囲をぐるりと回ってみた。硬質な素材、床との設置面から下にエナジボックスが置かれているようだった。しばらくするとメビウスの上部が閉まり、再び床下へ隠れてしまった。
「ふう・・」
純一は溜息をついてソファーに座った。今、見たこと、聞いたことは現実のものなのか、しばらくぼんやりしていると、ミホが目覚めた。
「ごめんなさい・・眠ってしまったみたいね。」
「ああ・・どうだ?少しは良くなったか。」
「ええ・・もうすっかり。」
「そうか・・・なら、上に戻ろう。」
そう言って、純一はソファーから立ち上がった。ミホも純一に続いて、リビングへ戻るエレベーターに乗った。

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