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2-25 メビウスの不調 [スパイラル第2部遺言]

2-25 メビウスの不調
「洋一さん、まだそこに居ますか?」
純一はラボで言った。洋一はミカのプライベートルームに居たが、イヤホンに純一の声が飛び込んできて慌てて、秘書室に行き、返事をした。
「はい。何でしょうか?」
「訊きたい事があるんだけど・・・リビングにはまだ敬子さんは居るかい?」
「いえ・・・先ほど出て行かれました。」

純一はミホとともに、再びリビングに戻り、洋一やミカ、ミサを集めた。
「君たちも先ほどの顛末は見ていたでしょう?・・・一つバランスが崩れると、あんな結末になるんですね・・・いや、そんな事より、洋一さん、会長の事故を調べた結果を誰かに話しましたか?」
洋一は驚いた表情で、純一の質問を聞いた。そして少し考えてから答えた。
「はい、調べた結果は警察へ行き、何度か説明しました。」
「役員の誰かに話しましたか?」
「いえ・・どなたにも話していません。」
「そうですか・・・では、会長の事故を仕組んだ犯人は、如月さんで決まりでしょう。」
純一の確信を持った言葉に、洋一、ミカ、ミサが驚いた。
「どうしてですか?あれだけ会長を慕っておられた如月さんが・・・・?」
ミカが言うと、純一は、ミサに先ほどのリビングの映像を開くように指示した。

大型モニターに早送りで映像が流れる。
「ここです。」
純一が映像を止めたところは、敬二郎が事故前日の話を始めたところだった。
「いいですか、このあとです。」
皆が画面に見入った。
『いや・・違うでしょう。貴方が細工をしたんだ。そうに決まっている。貴方が、燃料タンクに貴方が傷をつけたんでしょう!』
興奮した如月が発した言葉だった。
洋一はすぐに純一の言っていることがわかった。
「これは・・・。」
「そうです。如月さんは燃料タンクと口走っています。事故の原因が設計ミスとされているのに、彼ははっきりと燃料タンクに傷をつけたと言いました。これは、やった本人しか判らない事です。」
ミホが改めて純一に聞いた。
「でも、何故、如月さんが?プロジェクトのメンバーで、英一社長と苦労をともにしてきたんでしょう?会長を慕う気持ちも人一倍強かったって・・・。」
「ああ・・それが判らない・・・彼には動機が無いようなんだが・・・。」
「本人に問い詰めたらどうでしょうか?」
洋一が言うと、ミカも同調した。しかし、純一は首を横に振った。
「いや・・彼は頭が良い。・・いろんな理由をつけて言い逃れをするだろう。もっと証拠を集めなければ駄目だろう。・・・事故の前の日、如月の行動を調べる事と、動機は何かを掴まなければ・・・。」
「調べてみます。
ミカが言うと、ミサも洋一も同意した。
純一はミホとともにラボに戻ると、メビウスを起動した。
「役員会を開き、如月さんや常務、里美さん、敬子さん、そして伊藤部長は全て解任することになりそうです。」
「そうか・・・上総CSに巣食うダニが排除されたというわけか・・・よくやった。」
「しかし、まだ、あなたを死に追いやった人物は判っていません。それどころか、会長の事故が作為的に起されたのだと判りました。そちらのほうは犯人をほぼ特定できましたが・・・。」
「もう良い。そんな事は大したことではない。」
メビウスの意外な答えに純一は違和感を覚えた。
「しかし・・・あなたの最初の望みだったはずです。・・いや、私も、英一社長の死には疑問がある。それを解明しない限り、ここへ呼ばれた意味がわからなくなる。」
「いや・・良いのだ。・・それより、早く、私の欠陥の修復を急いでくれ。私が常に起動される状態になれば、全てうまくいく。それからでも、犯人探しは遅くない。」
メビウスは焦っているような口調だった。
「急ぐ理由があるのですか?」
メビウスは突然画面を落として沈黙した。そして暫くすると再び画面が光り現れた。
「今のは一体?」
「不具合が生じてきている。短時間の起動を繰り返したために・・少しずつ・・・エラー・・が・・増えて・・・きて・・いるようだ。」
「電源や排熱システムだけじゃなさそうですね。・・一体、あなたの本体はどこにあるんです。先日の設計図は、この丸い部分だけのものです。・・画像処理や音声システムはありましたが、記憶中枢本体が見当たらないんです。」
「それは・・・この真下にある。・・・」
メビウスはそういうと、画面の左側に映像を映し出した。
そこは、四角い部屋のようだった。真ん中に1メートルほどの透明の水槽のような容器が置かれていて、その真ん中に、30センチほどのオレンジ色にぼんやりと光る球体があった。球体の下からはたくさんの繊維が伸びていて。水槽のような容器の底に繋がっていた。
「これがメビウスの本体なのですか・・・。」
「そうだ。これこそ、私が開発したメビウス。人間の脳の構造を特殊なグラスファイバーと電解物質で作り出したのだ。ここに私の全てがある。」
画面を見ているうちに、オレンジの球体が徐々に赤い光を強め始めた。そして、小さく振動し始めた。画面の端には温度を示した数値が見える。徐々にその数値は高くなっている。
「そろそろ限界のようだ・・・。」
「一つ聞かせてください。如月さんは会長に恨みを抱いていた事はありませんか?」
「いや・・あいつは会長を父のように慕っていた・・・むしろ、私には敵対心のようなものを見せたこととはあるが・・・。」
そういうと、メビウスの中に警告音が響いて、シャットダウンした。徐々に起動できる時間が短くなっているようだった。

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