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2-26 メビウス本体 [スパイラル第2部遺言]

2-26 メビウス本体

メビウスのカバーを開いて、中から純一が出てきた。
「だめだ・・・メビウスの修理をしなければ・・・。」
純一は、メビウスの本体が収めされている地下室の入口を探した。球体の周囲には、それらしきところは無かった。
「どうしたんですか?」
ミホが純一に訊いた。
「いや・・・このラボの地下にメビウスの本体が格納されているんだ。・・・全ての核心はメビウスの中にあるようなんだ。・・しかし、欠陥がある。修理しないといけないんだ。だが・・入口がわからない。」
「お手伝いします。」
純一とミホはラボの床を丹念に見て回った。しかし、それらしき場所はない。
「何かヒントでもあれば・・・。」
ミホが呟いた。純一ははっと思いついた。
「今、メビウス本体は熱を持っている・・・きっと、通路があれば床も暖かくなっているはずだ・・。」
それを聞いて、ミホはすぐに履物を脱ぎ、裸足で床を歩いた。純一もミホに倣って歩いた。
「ここ・・少し温かい・・きっとこのあたり・・・。」
ミホは床に這いつくばった。綺麗にフローリングされた床の一部が確かに温かい。手のひらで、段差や隙間が無いかを探った。すると、1メートル四方の形で僅かに板の切れ目のある場所を探り当てることができた。純一は、床を剥がす道具を探したが、隙間がほとんどない。
「何か開けるためのスイッチがあるはずだが・・・。」
「コントローラーは?」
ミホがソファに転がっていたコントローラーを純一に手渡す。コントローラーの画面にはそれらしき表示はなく、メビウスのマークを押してみても変化は起きない。純一はメビウスが提示した設計図を開いてみた。球体の後部、一箇所だけ黒く塗られた場所があった。
「きっとここだ。」
すぐに球体の後ろに回って、その辺りを探ると、四角い窪みがあった。
「ミホ、コントローラーを持ってきてくれ!」
純一はコントローラーをその窪みに当てた。ぴったりと収まり、コントローラーの画面がブルーに変化した。そして、画面にそっと手を当てる。すると、先ほどの床がゆっくりと沈み込んだ。
1メートルほどの穴が開き、地下に降りられる階段が現れた。
二人はゆっくりと階段を下りていった。階段を30段ほど下りただろうか、目の前にぽっかりと大きな部屋が広がっていた。そしてその中央に、水槽のようなガラスケースが置かれ、その中に淡いオレンジの光を放ったメビウス本体があった。本体の下部からは太いグラスファイバーが伸びていた。
部屋の中は、メビウス本体が発した熱のせいでかなり蒸し暑かった。換気もされていないのか、アンモニアのような臭気も立ち込めている。
純一に続いて、部屋に降り立ったミホは、臭気と熱気で気分が悪くなり、「ううっ」と呻いてその場に座り込んだ。
その瞬間、ミホの脳裏に何か閃光の様なものが走り、幻惑のような景色が目に映った。

『いかん、すぐに停止だ!』
白衣を着た男が目の前で叫んでいる。周囲には、蒸気が立ちこめている。
『ミホ、スイッチを切ってくれ』
そう言って振り返った男の顔は、英一社長だった。

「ミホ、大丈夫か?」
ミホが座り込んだのに気付いた純一が近づき声を掛けた。
「済みません・・・大丈夫です・・・。」
「上に上がって待っていた方がいい。・・僕は暫く、ここで装置の構造を調べるから・・こいつを冷却することができれば・・・。」
ミホは先ほど目の前に浮かんだ幻影が気掛かりではあったが、純一の言うとおり、部屋から出る事にした。
「気をつけてね・・・。」

純一は、水槽のような容器の周囲をじっくりと見て回った。
「きっとこの中に冷却水を入れる設計なんだろうな・・・。」
天井を見上げると、幾つかのパイプが伸びている。パイプを辿っていくと、部屋の隅にバルブがあった。
「これを回せば、冷却水が流れ込むという仕掛けのようだな・・・。」
純一はバルブに手を掛けた。パイプの中を何かが流れる音がし始め、水槽の中には徐々にブルーの液体が溜まり始めた。その様子を見つめながら純一の心の中に疑問が湧き始めた。
「・・変だぞ・・・ここまで冷却する為の装置が出来ているのに、何故、冷却されていないんだ?・・上手く作動しなかったという事か?それとも別の理由でもあるのか・・・。」
純一は、徐々に冷却液が満たされていく様子を見ながら、考えた。
電力の問題もすぐに解決できた。更に冷却する装置も完成している。ならば、メビウス本体も正常に作動できる条件は揃っている。ここまで開発できた英一社長が、敢えてそうしなかった理由はなにか、どうにも純一には理解できなかった。それに、メビウスの中に本当に英一の記憶が埋め込まれているのならば、すぐにその事を伝えてくれてもおかしくない。

メビウスが映し出す英一は本当に英一社長なのか。これまで抱いてきた疑問が更に大きくなった。
「もう少し・・英一社長が亡くなった真相を調べた方が良さそうだ・・・。」
純一は、半分ほど冷却液が溜まった状態で、バルブを締めた。そして、階段を上ってラボへ戻った。

ラボに戻ると、ミホがソファーで横になっていた。
地下室の臭気と熱気で随分気分を悪くしたのだろう。純一がそっとミホに近づくと、ミホがゆっくりと目を開けた。
「気分はどうだい?暫く休んでいた方がいい。リビングに戻ろうか?」
「・・ええ・・でも・・・地下室の作業は良いんですか?」
「ああ・・・。だが、その前にやはり、英一社長の死の真相を突き止めるべきだと思ったんだ。何か、メビウスには重大な事が隠されているように感じたんだ。」
二人は、リビングに戻ることにした。

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