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2-27 推理 [スパイラル第2部遺言]

2-27 推理
純一はリビングに戻ると、ミカに役員をもう一度集めるように指示した。
「伊藤部長と如月さんは、もう島を出られた様ですが、他の方は今、夕食を取られています。」
「そうか・・それなら都合がいい。夕食後に集まってもらうように伝えてください。」
伊藤部長と如月は、それぞれ自前の船を持っていた。伊藤部長は、社有の船を使っているのだが、如月は自己所有だった。英一社長からの呼び出しですぐにかけつける事ができるようにと数年前に購入したものらしかった。

敬二郎、里美、敬子は、夕食を終え、ゲストハウスからリビングにやって来た。皆、憮然とした表情で、思い思いに部屋のソファーや椅子に座った。
役員から罷免され、何を今更という表情をして、敬二郎が誰に訊くとも無く、言った。
「一体、何が始まるんだ?・・・・」
純一は立ち上がって皆に言った。
「如月さんの提案はありましたが、当の如月さんにも問題があり、一旦保留する事にします。・・・すべてを明らかにした後で、皆さんの処遇を決めようと思います。」
それを聞いて、里美が訊いた。
「全てを明らかにするって・・一体、何を調べようと・・・。」
「先ほど、会長の事故が作為的に起されたもの・・いや、殺人事件の疑いも出ています。それに、英一社長も、自殺とは考えにくい。この二つの事件を解明しないと、上総CSの未来もないと思うのです。・・・そこで、皆さんから知っていることを話していただきたいのです。」
「会長も社長も、役員の誰かに殺されたっていうの?」
里美はヒステリックな声を出した。
「ええ・・それをはっきりさせたいんです。」
「まさか、私たちを疑っているの?」
更にヒステリックに言うと、純一が少し低い声で答えた。
「いや・・ここに居られる三人は関係ないと考えています。・・先ほどの話からも、皆さんには、会長や社長を殺す動機がない。いや、二人がいるからこそ、上総CSに居られると考えておられるはず。・・仮に、上総CSの財産を狙っていると考えてみても、社長を殺すまでのリスクを犯す必要はない。それより、役員として自由気ままに上総の利益を使えるほうが気楽ですから・・・。」
純一はちらりと敬子を見た。敬子は罰の悪そうな顔をしていた。
「となると・・・如月、伊藤、山下副社長と言う事になるが?」
敬二郎は純一の考えに納得したのか、冷静に純一に尋ねた。
「ええ・・その三人ですが・・・伊藤さんも除外されるでしょう。・・・マリン事業部の経理不正など、そんな事をしてもっと大きな秘密が暴かれる事のほうが怖いはず。おそらく無関係でしょう。」
「となると・・・如月か山下か・・・だが・・・山下には無理だな。あの身体じゃ、社長を殺す事など出来ない。それに、会長の事故では自分も命の危険があったんだ。自ら仕掛けたなら身を守る術ももっていたはずだし・・・となると、如月しかいないが・・・。」
「ええ、如月さんはきっと重要な役周りを演じておられるはずです。」
純一の答えに、敬二郎は少し疑問を持った。
「奴だけじゃないということか?」
「ええ・・・山下副社長と如月さんの共犯と言う事も考えられませんか?」
そこまで聞いていた敬子が小さな声で口を挟んだ。
「それは・・どうでしょう・・・・。山下副社長と如月さんは、いつも対立していました。・・・乗馬クラブの買収の時も、如月さんが積極的に動くのを山下さんは妨害するようなことばかりされましたし・・・そう、以前に、裁判の和解交渉で・・違約金の支払があった時も、山下さんが最後まで抵抗されて・・。」
それを聞いていた里美も言った。
「あの二人は事あるごとにぶつかっていたわね・・・。ほとんど意地の張り合いみたいな事もあったし・・・同じような境遇で上総会長に拾われたのに・・・確か、あの二人は同期入社だったんでしょ?」
里美の言葉に、秘書のミカが手元の資料を見ながら付け加えた。
「ええ・・・わかっている範囲ですが・・・同期入社のようです。それに、どちらも幼少のころに良心をなくされていたようですね。」
前に報告した時には個人データにアクセスできなかったのを、別の方法でミカが調べたものだった。
「では・・共犯ではなく、如月さんの単独の犯行ということでしょうか?」
純一が言うと、敬二郎が言った。
「いや・・如月には、そもそも動機がないだろう。あいつだって、会長には可愛がられていたし、社長からも信頼されていた。社長を殺しても何のメリットもない。相続権さえもないんだからな。・・仮に、あんたが・・・いや、小林社長が見つからなかった場合、私が相続することになる訳だからな・・俺が相続したなら、あいつを真っ先に追い出している!」
「じゃあ、一体誰なの?」
里美が敬二郎に訊いた。
「そんな簡単にわかるわけないだろうが!・・・・外部の者ということも・・・そうか・・山下が誰かに頼んでという線もあるか・・・。」
推理小説の犯人探しの議論の様相を呈していた。

「会長の事故は、確かに誰かに仕組まれたのは間違いありません。それは、洋一さんが突き止めました。燃料タンクに傷を入れた人物がいるんです。」
純一が言うと、傍で聞いていた洋一が強く頷く。すると、敬二郎がピンと来たようだった。
「そう言えば・・如月がさっき口走っていたな。・・やっぱり、あいつが会長の事故を仕組んだのか?」
「たぶん、そうでしょう。犯人しか知らないことでしょうから・・・。」
純一は少し残念そうな表情を浮かべて答えた。
「だが・・あいつもプロジェクトのメンバーだったんだぞ。・・・何故、そんな事故を起す必要があるんだ?」
「ええ・・そこが判らないんです。・・何か思い当たることはありませんか?・・・そのプロジェクトの中で何かトラブルがあったとか・・・船を完成させたくない理由があるとか・・・。」
「いや・・それはどうかな・・・当時、若手ばかりで徹夜も辞さない覚悟で、皆熱心だった。羨ましかったよ。英一社長を中心に、いきいきと開発を進めている連中を見るたびに、メンバーに入れなかった事を恨んだくらいだ。如月は、特に生き生きしていた。・・設計とか資金面でのトラブルはあっただろうが・・・船を壊してしまうような事故を仕組む理由など無かったはずだぞ。」
敬二郎は妙に熱心に推理をした。
「そこが判らないと・・如月さんを追及する術もないんです。」
「ああ・・あいつは利口だからな・・・何とでも言い訳をするだろう・・困ったな・・・。」

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