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3-4 尋ね人 [スパイラル第3部 スパイラル]

3-4 尋ね人
沈黙しているところへ、場違いな雰囲気で現れたのは、古畑刑事だった。
「小林さんが戻られたと聞いてやってまいりました。」
どこから耳にしたのかわからないが、古畑刑事は、事務所に入るなり、純一に敬礼した。
「ミホさんの件でお知らせしたいことがありまして・・・。」
全く、状況を知らない古畑刑事は何か得意げな顔をして言った。
奥さんが立ち上がり、古畑刑事にツカツカと近づくとキッと睨み、耳元で小さく言った。
「ミホさんは亡くなったんだよ・・・一体、どういうつもりなの?」
それを聞いて、古畑刑事は驚いた表情で純一を見た。そして、手帳を見ながら、躊躇いがちに言った。
「いや・・・その・・・どうしたもんでしょう・・・・。しかし・・・」
もごもごと何か混乱していた様子を見て純一が言った。
「何ですか?とりあえず、聞かせてください。」
「はあ・・では・・・少し長い話になりますが、宜しいでしょうか?」
何か余計に神経を逆撫でられるようで、純一は少し苛立って言った。
「手短にね・・。」
「はい。・・ええと、実は、ミホさんの身元に繋がる有力な情報を得まして・・・なんでも、幼い頃にミホさんは施設にいたようで、そこの施設長だった方から連絡があったんです。・・いや、正式には、連絡を受けたのは、ショッピングモールの化粧品売場の・・ええっと・・・須藤さんという方なんですが・・・」
それを聞いて、純一は、以前、ミホと二人でショッピングモールで買い物をした時の事を思いだした。
古畑刑事は話を続けた。
「ミホさんがモデルで化粧をした時、見ていた客の一人が動画撮影して、ブログに載せたらしいんです。・・私も見ましたが・・驚くほど美人でした・・・・・それを偶然ある方が見て、連絡をくれたというんです。・・・まあ、小さな画像ですから・・当てにはなりませんが・・・ただ、その方は間違いなくミホさんだと名前も言われたそうでしたので・・・。」
「それで?」
「いや・・連絡を受けたのは須藤さんで・・・その須藤さんから警察に相談があり、私のところへ回ってきたというわけです。ただ・・警察として事件でも無いので・・・深入りすることができなくて・・小林さんに相談すべきだろうとお帰りを待っていたんです。・・。」
全く肝心な部分が良く判らない話だった。
「詳しい話は、須藤さんに確認してみてください。・・でも、ミホさんが亡くなったのなら、会いたいと言うのも叶わない事ですから・・・・・もう少し早く連絡出来れば良かったのですが・・・」
全くだった。もっと早く知らせてくれればと純一は内心思っていたが口にはしなかった。それより、あの後も、ミホの身元を調べる為に動いてくれていたことが嬉しかった。

「ミサさん、ショッピングモールに行ってみましょう。」
すぐに二人は、健二の運転するリムジンでショッピングモールへ向かった。
平日にも関わらず随分な客足だった。
「あの・・・小林といいますが・・須藤さんは?」
純一が近くにいる店員に問うと、「少々お待ち下さい」と答えて、バックヤードへ入って行った。しばらくすると、早足で見覚えのある女性がやってきた。
女性は純一を見ると、会釈をしながら近づいてきた。
「あの・・・小林と申します。・・覚えていらっしゃいます・・」
そう言いかけたところで、須藤はじっと純一を見つめて
「ええ・・忘れてなどいませんよ。・・・」
そう言いながら、後ろに控えていたミサを気にした。ミサがすぐに気づいた。
「私は、会長秘書の橘ミサと申します。会長のお供をさせていただいています。」
と頭を下げた。須藤は、安心した表情を浮かべて言った。
「ミホさんに会いたいって言う人が現れたんです。・・・・ミホさんはどちらに?」
純一はどう答えようかと迷った。
するとミサが、淡々と答えた。
「ミホ様は、事故で亡くなられました。もう一年前になります。会長もその事故で大怪我をされました。不幸な事故でした。」
須藤は驚いた。そして、「そうなの・・・」と小さく呟くと、さめざめと涙を流した。
「ごめんなさいね・・・ようやく、ミホさんの力になれると思っていたのに・・残念です・・・。」
「いえ・・・あの・・少しお話を聞かせてもらえませんか?その方の事、教えていただきたいんです。」
「ええ・・・あの少し待っていただいても良いかしら・・・あと30分ほどで仕事も終わりますから・・・」
「わかりました。ええっと・・・」
そう言って純一が周囲を見ていると、
「2階に、アラビカという喫茶店があります。そこで待っていてもらえませんか?」

二人は、須藤が休憩になるまで、ショッピングモールを少し回ってみる事にした。
一階には洋服のセレクトショップが並んでいる。女性たちが、立ち止まっては品定めをしている。
純一の供をしているミサも興味深そうに、それぞれのショップを見ていた。
ミホと初めて訪れてから随分時間が経過していたが、凡その店はそのままだった。
純一は通路を歩きながら、ミホと過ごした時間を思い出していた。
身元保証人を引き受けて、同居するに当たって、日用品を買いに来た。はじめは、無表情だったミホが次第に打ち解け、あの化粧品店で化粧モデルをしてから急に明るくなったのだった。
純一は通路の真ん中に立ち止まり、ぼんやりと遠くを眺めていた。
ミサは、もう随分長く純一の傍に仕え、純一の表情を見るだけで、純一がミホのことを思い出している事がわかるようになっていた。そして、それがどれほどの寂しさを運んでくるかもわかるようになっていた。

「ねえ、会長、ご褒美をおねだりしてもいいですか?」
珍しくミサが甘えるような声を出して言った。
「ええ?ご褒美?」
「そうです。ご褒美です。」
ミサはいたずらっぽい笑顔を浮かべて答えた。
「ふうん・・ご褒美ねえ・・・まあ、良いか。君には随分とわがままを聞いてもらっているからね。」
「やったあ!」
ミサは秘書ではなく、わざと妹のような甘え方をしてみせた。

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