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3-6 ミホの過去 [スパイラル第3部 スパイラル]

3-6 ミホの過去
純一は須藤と、モール内にある【アラビカ】という名のコーヒーショップに入った。静かな音楽が流れていた。二人は、窓際の席に座り、コーヒーを注文した。外には大通りが見え、たくさんの車が行き交っていた。
「ミホさんが亡くなったなんて・・・信じられません。・・・」
須藤は外の景色をぼんやりと眺めながらポツリと言うと、急に顔を伏せて、ぽろぽろと涙を流し始めた。純一は何も答えることができず、じっと外を見ていた。
「ごめんなさいね・・・でも、もう一度会えるって信じていたから・・・・。それで、彼女は記憶を取り戻す事はできたんですか?」
まだ、顔を伏せがちにしながら、須藤が訊いた。
「・・・おそらく・・・・事故の直前に取り戻したと聞きました。私は、意識を失っていて・・・事故の少し前に彼女と別々のところに居たものですからその様子は知りません。・・・」
「そうなの・・・・」
須藤は再び顔を伏せて泣いた。
そこへミサが遅れてやってきた。随分大きな袋を抱えている。
「すみません、遅くなりました。・・・さっきのお店、随分、たくさんプレゼントを下さいましたよ。・・・是非、またお越し下さいって・・店員全員出て来て深々と頭を下げて見送ってくれました。」
ミサの言葉は何か勝ち誇ったような、得意げな響きに聞こえた。
泣いていた須藤も、ミサの余りに不調法な話し方にクスリと笑って顔を上げた。
「あのお店の店長、結構ケチだっていう話なのに・・・随分高い買い物をしたんでしょ?」
「ええ・・・まあ・・・。」
ミサが少しばつの悪そうな表情をして答えた。
「いや、彼女がご褒美が欲しいっていうものだから、ちょっと奮発しました。」
「あらっ良いわねえ・・・是非、私のお店でも化粧品をたくさん買ってくださいませんか?」
「ええ?」
純一の返事に戸惑った返事に須藤が言った。
「冗談ですよ・・・それに、彼女、若いし、充分かわいいから、たくさんの化粧品なんて必要ないでしょう。ちょっと気分転換くらいの化粧で良いんですよ。・・ね?」
ミサは可愛いといわれて真っ赤になった。純一は、ミホと初めて来た時、同じような言葉を須藤から訊かされた事を思い出していた。
コーヒーショップの店員がコーヒーを運んで来た。ミサの分を使いで注文した。

「あの・・・逢いたいっていう連絡を下さった方は?」
ミサが話題を変えるように切りだした。
「ああそうでしたね。そのためにお時間をいただいたのに・・・連絡を下さったのは、ミホさんが子どもの頃に過ごしたという児童養護施設の園長をされていた方からでした。いえ、その方の娘さんからでした。」
須藤はそう言うと、名刺を一枚取り出した。
「ミホさんの映像を載せたブログがあって、それを見たというんです。」
「ええ。そこまでは古畑刑事から聞いています。」
純一はコーヒーを飲みながら言った。ミサはテーブルの上の名刺を手にとって見た。
「小学生の頃にいらした施設ということでした・・・。」
「小学生の頃?じゃあ、ミサさんも一緒にいたところじゃないのか?」
「いえ・・・ミホさんは、小学5年生の時に私たちの施設に来たんです。そして、すぐに上総の奥様の許へ行きました。如月さんたちとも2年くらい一緒にいました。でも、その施設の人ではありません。」
「じゃあ、その前にいた施設ということか・・・。」
純一が呟くと、須藤が言った。
「そうそう・・・確か、その施設は普通の。。養護施設じゃなくて・・心の病を治す特殊な施設だったとお聞きしました。今はもう廃園になったそうです。」
「心の病?」
「ええ・・・どんな病だったかはお聞きしませんでしたが・・・その中でも特別だったと・・・。園長の娘さんも、その園で指導員をされていたとおっしゃっていました。」
「特別な心の病?」
「ええ・・・。」
ミホの人生は一体どんなものだったのだろう。短い生涯をどんなふうに生きてきたのだろう。この街で過ごした時間はミホにとってどんなものだったんだろう。幸せと呼べる時間だったのだろうか。
「そういえば・・・ミホさん、私達の施設に来た時もほとんど口を利かず、笑顔も見せなかったんです。無表情というよりも、心をどこかに置いてきたって言う感じで・・・・随分、痩せていましたし、食事もあまり摂らない様な事もありました。・・・私と、ミカさんはそんなミホさんを心配して、いつも傍にいるようにしていたんです。でもなかなか自分のことも話してくれなくて・・・。」
「じゃあ・・上総にいた時も?」
「いえ・・・上総に行ってから、奥様のお傍で優しくしてもらいましたから、次第に明るくなりました。何より、勉強が良くできたので、奥様もミホさんのことを一番可愛がっておられました。それに応えるようにミホさんも頑張っていました。」
「そうなのか・・・。」
「でも、時々、とても淋しそうな顔をするんです。それがどういう事か判りませんでしたが・・。」
「そうか・・・。」
純一は残ったコーヒーをぐっと飲み干した。そして、ミサに言った。
「会いに行こう。その人にあって、幼い頃のミホのことを教えてもらおう。」
「きっと先方もお喜びになりますよ。」
須藤もそう言って賛同した。

純一は、須藤に別れを告げ、ショッピングモールを後にした。
リムジンに乗り込むと、すぐに、ミサが純一の体を心配しながら訊いた。
「すぐに行かれますか?」
「いや・・今日は疲れた。アパートに戻って休みたいんだ。・・・送ってくれないか。君たちはどうする?」
「健二さんはクルーザーへ戻って明日の準備を、私は会長とご一緒させていただきます。」
「そうか・・・判った。」
純一はリムジンの席にほとんど横になるような格好で座っていた。事故の後遺症が残っていて、疲れが酷かった。

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