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11.不気味なグロケンの集団 [AC30第1部グランドジオ]

翌日も同じ場所に向かった。しかし、そこにはもはやフィリクスの実は一つも落ちていなかった。ホルミカたちがすべて持ち去ったあとだった。
「やっぱり・・もう何にもないなあ・・・。」
がっかりした表情でハンクが言う。
「せめて、フィリクスの樹を持って帰ろう。」
そう言うと、キラはグラディウスを使って、倒れたフィリクスの樹を切り始めた。
フィリクスの樹はサボテンの様なもので、枝状に伸びた部分を切ると、中からねっとりとした樹液が滲み出てくる。ちょっと舐めると、それは実と同様に甘かった。
4人は暫く黙々と枝を切り、ネットに詰め込んだ。フィリクスの樹は長期保存ができる。硬い皮を剥き、中の透明で柔らかい部分は実と同様にちょっとしたデザートにもなるものだった。だが、フィリクスの実には適わない。
4人は背負えるだけの枝をもって、ジオフロントに戻った。
それから、数日、同じ作業を続けた。
「なあ・・そろそろ、他の場所へ行ってみないか?・・どこかに、まだ、実がついている樹があるんじゃないかな?」
ハンクはどうしても、フィリクスの実が諦めきれない様子だった。
「他の場所って言ってもなあ。」
プリムが言う。アランも、作業の手を止めて、ハンクを見る。
アランは、もう7年も猟に出ていて、ジオフロントの周囲の様子は熟知しているが、フィリクスの実が取れる場所は、ここの他には、思いつかなかった。
「じゃあ、明日は、また、あの海に行ってみるか?」
キラが言った。
「え?」三人が同時に反応した。
「前に言った時、砂浜の近くに、広い荒地があったんだ・・・ひょっとしたら、あそこならフィリクスがあるかも・・。」
その言葉ですぐに決まった。

翌日は、少し早目にジオフロントを出た。
四人は、グロケンの潜む川沿いを急いで下っていく。前は、恐怖が先に立ってみんなの一番後ろを歩いていたハンクが、今回は先頭を歩いている。
「気を付けろよ、この時期のグロケンは、凶暴なんだ。油断するなよ。」
キラが声を掛ける。
「大丈夫さ!」
そう答えたハンクがつい油断して、石に躓いて転んだ。拍子で、小さな石が川の方へ飛んだ。
「バチャン!」
その音と同時に、川の中央あたりが俄かに騒がしくなった。それまで静かだった川縁に、何度も波が寄せるようになる。
「いかん、グロケンがこっちへ向かってくる!」
キラがそう言うと、すぐにみんなが川岸から土手へ上がった。そして、萱野原の中にじっと身を潜めた。
川縁の波が徐々に大きくなると、水中から黒い塊が顔を出す。大きなグロケンだった。それも一匹だけでなかった。
「動くなよ。」
キラが小さな声をみんなに言った。
川縁には、数十匹のグロケンが現れた。そして、四つん這いの格好でじっと、萱野原の方を見ている。グロケンは余り視力は良くない。むしろ、粘着性のある肌で空気の流れを感じ、獲物を見つけるのだ。だから、じっと動かなければ見つかることはない。時折、何匹かのグロケンが、何かを感じたのか、あらぬ方向へ長い舌を伸ばすしぐさを見せたが、徐々に、また川の中へ戻って行った。全てのグロケンの姿がなくなるまで、キラたちはじっと草むらに這いつくばったままでいた。一匹くらいなら、戦って勝つこともできるだろうが、あれだけの数となれば勝ち目はない。とにかく、いなくなるのを待つしかなかった。
「もう良いだろう。」
キラは、そっと立ち上がり、川べりの様子を探った後、言った。
「急ごう。時間を食った。」
そこからは、キラが先頭になって、海へ向かった。

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