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10.命からがら [AC30第1部グランドジオ]

フィリクスの樹が倒れた後には、2体のウルシンが、威嚇しあいながら、鎌状の両手を鋭く振りまわして対峙していたのだった。
長い夏季で飢えているウルシンは、凶暴で見境がない。食糧になるものなら、同類さえも襲う。もはや、そこにいる人間など目に入っていない。
「今のうちに、早く逃げよう。」
キラは、フィリクスのみを集めるのに必死になっているハンクたちに声を掛ける。
「ああ・・だが・・まだ・・。」
10mを超える大木が何本も切り倒されたのだ。鈴なりの実がまだまだ周囲に転がっている。
「早くしないと、ホルミカたちがやってくるぞ!」
キラが厳しく言う。ホルミカとは、体長50CM程度の虫で、蟻が巨大化したものだった。
フィリクスの実は、ホルミカたちも好物であった。本来、熟しきって地面に落ちた実に集まる習性があった。通常なら人間を襲う事はないが、フィリクスの実を持っていれば別だ。実を奪おうと、大きく伸びた顎で噛みつく。顎には弱い毒液を持っており、噛みつかれると全身が麻痺してしまう。しばらく動けない状態になる程度だが、そこに別の虫が現れれば、命を落としてしまう。
ホルミカ1匹に見つかれば、すぐに群れとなって次々にやってくる。
「さあ、急ごう。」
4人は、一目散にジオフロントへ向かった。
「うわあ!」
草叢を走り続けていると、急にプリムが転がった。足元にフィリクスの実が転がる。
キラが予想した通り、ホルミカが一匹、目の前に現れたのだった。
「まずいな!」
キラがすぐにグラディウスを抜き、構える。キラの声に、三人は立ち止まったままだった。
「先に行け!大丈夫だ!」
キラはアランに視線を送る。アランはこくりと頷く。
「さあ、行くぞ!」
ハンクとプリム、アランが草叢に身を隠しながら、一目散にジオフロントの入り口に向かった。
命からがら、フロントの入り口に辿り着く。ジオフロントの入り口の脇に、腰を下ろす。
「キラ、大丈夫かな?」
ハンクが心配顔で、アランに訊く。
「大丈夫さ。あいつ、今までも何度もウルシンやホルミカを相手にしてきたんだ。俺も何度か救われたことがあった。」
経験の短い、ハンクやプリムにとっては、巨大な虫と戦うなど想像もできない事だった。
ゆっくりと日暮れが近づいている。じっと入口で待っている3人には、途轍もなく長い時間のような気がしていた。
「すまない、ちょっと、手間取った。」
そう言ってキラが戻ってきた。手には、三つほどのホルミカの蜜袋を持っている。ホルミカは、大量の蜜を貯めることができる袋を体に持っており、キラはそれを獲ってきたのだった。
入口のドアを開け、チャンバーに入ると、すぐにハンクが訊いた。
「どんなふうにやっつけたんだ?」
階段を下りながら、キラが言う。
「最初のホルミカは、グラディウスで突き刺した。その時、尻にある蜜袋を狙うんだ。蜜袋が破れてしまうと、仲間のアトリムたちは、その蜜に集まるのさ。もう、人間なんて関係ない。われ先にと蜜を吸いに来る。あいつら、蜜を吸う時は無防備になる。あとは、後ろから一突きして、こうやって、蜜袋をいただくのさ。」
キラが言うと、プリムもハンクも感心した表情を見せる。
「だが、注意しないとなあ。尻の蜜袋はおそろしく硬い。だが、一カ所だけやわらかい所がある。そこに命中させないと、意味がない。前に一度、痛い目に遭ったよ。」
アランが付け加える。
その日は、ジオフロントは、お祭りのような騒ぎになった。
待望のフィリクスの実とホルミカの蜜袋が手に入ったからに他ならない。戻ってきた男たちはほとんどがフィリクスの実を抱え、その数は一族全員に配っても余るほどだった。これほどの収穫はここ数年なかったことだった。

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