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9.フェリクスの実 [AC30第1部グランドジオ]

翌日からは、もう狩猟には出かけられなかった。
季節が移り始めたのだ。
昨日見た真っ黒い雲こそ、灼熱の季節の前触れであり、これから1ヶ月近く、豪雨が続く。尋常な量ではない。ジオフロントの地上への出入口あたりはすっかり沼となり、扉を開ける事もできないほど水の底に沈む。それと同時に、凄まじい落雷が昼夜を問わず続くのである。そして、その雨が上がる事には外気温が60℃近くまで上昇する。グロケンたちはじっと水の中に身を潜め、ウルシンも、水のない高地へ移動し、じっと地面深く潜って過ごす。生きものすべてがじっと息を殺して灼熱の季節をやり過ごすのである。

灼熱の季節は2か月ほど続く。
その灼熱に耐えられるサボテンに似た植物だけが地上を支配できる季節である。
その中でも、彼らがフェリクスの樹と呼ぶ、最も大きなサボテンは、地上10メートルまで一気に成長するのである。そして、灼熱の季節の中で実をつける。
灼熱の季節が終わりを告げる頃には、その実は、直径10センチほどの大きさに育つのである。
その実は、硬い表皮に覆われているが、割ると、中はみずみずしい真っ赤な果肉が詰まっている。
果肉は、途轍もなく甘く、一口で十分満足できた。また、硬い表皮を潰し、粉にすると芳しい香りを放つ。その魅力は、ジオフロントの全ての人間にとって何物にも代えがたい至福の喜びに違いなかった。
豪雨と灼熱の3か月間、じっとジオフロントの中で息を殺して暮らすことになるのだが、その期間は、だれもがこのフェリクスの樹の事を考えているのであった。

いよいよ、灼熱の季節が終わる頃になった。キラたちはいつもの仲間たちで地表に出た。
「さあ、あの実を見つけよう。」
ハンクが威勢よく言った。
「ああ、みんな、楽しみに、待ってるからな。」
そう言うハンクもうきうきとした表情を浮かべている。だが、アランとキラは浮かぬ顔だった。実が見つかれば確かに皆喜ぶだろう。だが、その実を見つけるには、背の低い草原に行かなければならないからだ。フェリクスの樹は、周囲に高い草が生えていない砂漠の様な場所を好んだ。その上に、10mもの高さに伸びている。サボテンの様な棘のある樹を昇り、実を切り落とす作業が必要なのだ。ウルシンたちに見つかる危険もあった。
4人は、背丈まで伸びている草叢をまっすぐ西へ向かった。徐々に草丈が低くなり、草叢が薄くなってくる。
「おい、あったぞ!」
ハンクが指差した。少し先に、フェリクスの樹が何本も生えているのが見えた。
既に、他のグループが先に向かっている。できるだけ、ウルシンたちに見つからないよう、地面に張り付くようにしてゆっくりと進んでいる。
「さあ、俺たちも行こう。」
プリムが言うと、キラが「ちょっと待て」と言った。キラが、じっと周囲を見回す。周囲の草むらにウルシンが潜んでいないかを確かめているのだった。しかし、ウルシンは緑の体をしていて、草叢に潜んでいるとほとんど見分けがつかない。それでもキラはじっとウルシンの姿を探した。アランもじっと草むらに視線を遣る。
いつもは、怖がりだったはずのハンクは、フェリクスの事を考えると恐怖も吹き飛んでしまうのか、キラが止めるのを待っていられない。
「大丈夫さ、さあ、行こう。」
ハンクがそう言って、草叢から顔をのぞかせた時だった。
前を行く他のグループの男たちが急に立ち上がって、慌てて走り出した。10人ほどが一目散に駆け出し、キラたちの隠れている草叢の方へやってくる。
「ウルシンか?」
走ってくる男たちの後ろで、バリバリという激しい音がしたと思うと、フェリクスの樹がキラたちの方に向かって勢いよく倒れてきた。ドスンという音とともに、フィリクスの実が樹から離れて転がった。
ハンクは、急いで、転がる実を集める。プリムもアランも、持てるだけの実を拾い集める。草むらに逃げ込んできた他のグループの男たちも、転がる実を集めた。
キラは、グラディウスを手に構えて、じっと様子を伺っていた。

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