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8.治療 [AC30第1部グランドジオ]

「すぐにホスピタルブロックへ運んで!」
人垣を掻き分けて現れたのは、ガウラという女性だった。ガウラは、このジオフロント唯一の医師である。ガウラはキラよりも一回りほど年上だった。代々、ジオフロントの中にあるホスピタルブロックを守る役割を担っている。ガウラの父はすでに他界し、若いガウラが跡を継いだのだった。
「キラ、手伝って!」
キラの父がウルシンに襲われた時、まだ幼かったキラが何も怖気づくことなく、ずっと父に寄り添い、ガウラの治療を手伝って以来、ガウラはキラを助手と決めていた。
ホスピタルブロックは、収蔵庫の一つで、先人類が遺した医療用スペースで、高度な医療器具や薬品があった。だが、医療技術は伝わらなかった。ガウラも、僅かに伝えられた技術だけで何とか皆の役に立つ程度だった。
大きなドアを開けると、中の照明が一斉に点灯した。大きな病院のように、ブロックの中には幾つものベッドが並んでいる。壁の両側には、大量の医薬品が入る棚がある。中央には、白い治療台があった。
「さあ、ここへ。上を向くように寝かせて。」
ライトが強く照らされる。ガウラは、治療台の隣にある、器具のスイッチを入れる。それは、中央にモニタービジョンがあり、そこから腕のように飛び出した棒の先に、銀色の丸い突起物が付いている。ガウラはその棒状の腕を持つと、若者の傷口へ近づける。二本の棒が近づくと、プラズマのような光が発する。モニタービジョンを覗き込み、その棒を何度も何度も傷口へ近づける。時々、パチパチと何かが弾けるような音がする。
「これで良いわ・・。」
ほんの10分程度だった。若者の傷口はすっかり塞がり、出血もなかった。見守っていた人々は、安堵の溜息を漏らす。
「随分、出血があったみたいね・・・キラ、次は何かしら?」
「造血剤を打たないと・・。」
「そう、正解。じゃあ、持ってきてくれる?」
「はい。」
キラはそう言うと、医薬品が積まれた棚の方へ行き、手に小さなカプセルを持ってやってきた。
「じゃあ、投与して。」
キラは手際よく造血剤を横たわる若者の傷痕に打つ。
「じゃあ、彼をセルに連れて行ってあげてね。ウオーターベッドで静かに休ませてあげてください。そして、目が覚めたら、痛み止めを飲ませてね。きっと元気になるわよ。」
ガウラの言葉に反応するように、外で見守っていた人たちが入ってきて、若者を運び出していった。
「やっぱり、キラは物覚えが良いわ。ねえ、ここで私の役目を継いでくれいないかしら?」
いつも治療が終わるとガウラがキラに向かって言うセリフだった。キラはいつも聞いていないような表情を浮かべて、そっと頭を下げて、ホスピタルブロックを出て行くのだった。
外に出ると、キラの母ネキが、一人の女性に寄り添っている。その女性はじっと蹲り悲しみを耐えているようだった。そこへ二人の若者がやってきて、その女性の前で土下座をするような格好で蹲った。
「ごめんなさい・・本当に・・ごめんなさい・・。」
「もっと周囲に気を配っていたらこんな事には・・本当にすみませんでした・・・。」
キラが出てきたことに気付いたネキが、キラを見て首を横に振り、立ち去るように目でそっと合図する。

ライフツリーに戻ると、セルへ上る階段の下で、父アルスが待っていた。
「草むらで、芽を摘んでいた時、ウルシンと出くわしたそうだ。一人が、グラディウスで立ち向かったが、鎌で首を切られ絶命した。それを助けようとした、もう一人が背中を切られたようだ。」
アルスは、自分が襲われた時の事を思い出すかのように呟く。
「・・・・」
キラは何も言えなかった。
「この時期のウルシンは、長雨に備えて腹いっぱいになろうと必死だからな・・。運が悪かったんだ・・。」
アルスは、そう言うと、自分のセルへ入った。
毎年、何人かの若者が狩猟の最中に命を落とす。
それでも、短い季節の間に、地表へ出て食糧を手に入れるほかなかった。そうやって、人類は生き延びてきたのだった。


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