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29.アノキシア [AC30第1部グランドジオ]

しばらくして、ガウラの少し落ち着いた声が聞こえた。
「どうやら、体に異常はなさそうね。でも・・長い間、アノキシアに置かれていたから、きっとまだ意識が混濁しているのよ。体内水分も少ないようだから…そうね、何か、水分と栄養が摂れるものがあると良いんだけど・・。何か、食べるものは持ってる?」
ガウラの声に、ハンクが答える。
「近くに、フィリクスの実がなってるはずだから・・それを取ってくればどうかな?」
「フィリクスの実があるの?それなら、ちょうどいいわ。すぐに取って来て!」
ガウラの指示を聞いて、ハンクとアランが立ち上がった。
「すぐに取ってくるよ。キラ、彼女の様子を見ていてくれ。」
二人は走り出した。
「キラ、彼女の意識がはっきりしてきたら、すぐにもジオフロントへ連れてきなさい。もっと詳しく診ないといけないから。」
ガウラはそう言うとユービックが切れた。
砂浜に、キラと少女が残された。少女は仰向けになったまま、じっと空を見ている。動けないのか、動きたくないのか、まっすぐ手足を伸ばしたまま、ただ空を見ているようだった。
「名前はなんて言うんだろう・・・。」
キラが独り言のようにつぶやいた。
「フローラ…私の名前はフローラ。」
鈴を転がすような美しい声が聞こえた。
キラは、突然の返答に、驚いて立ち上がった。すると、少女がゆっくりと上半身を起こして座った。
「私の名はフローラ。オーシャンフロントで生まれました。ここはどこですか?」
少女はまっすぐキラを見つめて訊いた。
「ここは・・ジオフロントから少し離れた海岸だよ。君はライブカプセルでここへ漂着したんだ。」
「ジオフロント?」
「ああ、ぼくたちが暮らしている地下エリアさ。」
「そう・・・。」
少女は虚ろな表情でキラの声を聴いている。やはりまだ、意識がはっきりしていない様子だった。
「痛いところとか苦しいところはないかい?」
キラの言葉に少女は改めて自分の手足を見た。何か、自分の体を初めて見たような感じだった。
「いいえ・・。」
「ここへ来る・・いや・・何か・・昔の・・オーシャンフロントの事は覚えているかい?」
キラの質問に、フローラは何か思い出そうとする仕草を見せる。
「判らない・・・なんだかぼんやりして・・・・」
「そうか・・・。」
やはりまだ意識がはっきりしていないのだろうとキラは考え、それ以上の質問は止めた。
そこへ、アランとハンクがフィリクスの実をたくさん抱えて戻ってきた。相当急いだのだろう、二人とも息が上がっている。
「さあ、これを食べると良い。元気になる。」
ハンクが一番大きなフィリクスの実を取り上げて、グラディウスを器用に使って半分に割り、中のゼリー質の果肉を取り出す。
フローラは少し躊躇っているようだった。
「おい、ハンク、いきなり食べろって、差し出されても無理さ。」
アランはそう言うと、鞄の中からスプーンを取り出し、ゼリー状の果肉を掬い、少女の前に差し出した。
「とっても甘くて美味しい果物なんだ。俺たちはみな大好物なんだよ。元気になれるから・・さあ、一口食べてみな。」
フローラは、一度、キラを見た。キラが頷くと、小さな口を開けて、一口食べた。
「美味しい!」
「そうだろ?さあ、食べな。」
アランは喜んでフローラにスプーンと半分に割ったフィリクスの実を手渡した。

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