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4.潮の香 [AC30第1部グランドジオ]

1時間ほど川べりを下っていくと、潮の香がし始める。ここまで来ると、もうグロケンの姿はない。4人はいったん川から離れ、腰くらいまで伸びた細い萱野原を歩く。突然、視界が開けて、長い砂浜が続く景色が広がった。
砂浜に出て、波打ち際まで4人はゆっくりと進んだ。穏やかな海が広がっている。
長い冬の間、土竜のように地下で暮らす4人を、遮るものが何もない光景は、何か、全てのものから解放されたような気持ちにさせた。臆病者のハンクは、先ほどまで周囲の様子を異常なほどに気にしていたのだが、目の前の光景に一気に気が緩んだようで、『はあ・・・』といって砂浜に座り込んでしまった。
「ハンク、気を付けろ!ブクラが噛みつくぞ!」
そう言ったのは、キラだった。ブクラとは、カニの一種だった。砂の中に身を潜め、刺激を感じると、鋭い爪だけを砂から出して、なに構わず、鋭い爪で挟み、強引に砂の中に引きずり込んでしまう習性がある。
「ヒイ!」
ハンクは飛び上がった。
その直後、予想通り、ブクラの爪が飛び出してくる。
そこをめがけて、アランが背に付けたグラディウス(剣)を素早く投げる。グラディウスが爪を貫くと、爪が二節目で折れて砂浜に転がった。
「よし!これで昼飯が出来たな。」
アランは得意げな表情を浮かべる。ブクラの爪は、裕に50cmほどの大きさがあり、その身は4人では食べきれないほどだった。4人は、萱野原から枯れた葉を集めて火を起こした。
4人は焚火を囲み、ブクラの爪を焼き、硬い殻を割り、身を食べる。
「なあ、ブクラの爪も良いな。・・・さっきみたいに、捕れると良いんだがなあ・・・。」
アランが言うと、ハンクはジロッと睨んだ。
「俺を餌にしようって言うんじゃないだろうな?」
「大丈夫さ、良い方法があるんだよ。」
アランはそう言うと立ちあがって、食べ終えて出た爪の殻を持ち上げ、砂浜に向かって放る。その振動に反応したのか、ガサっという音とともに、ブクラの爪が現れる。
「な?こうやって、砂の上に何でも投げつけてやれば、爪が現れる。そこを一突きすればいいんだ。」
「へえ・・そうか・・・。」
ハンクは爪の身を頬張りながら納得の表情だった。
「だが・・そんなに、都合よく出てくるかな?」
プリムが訝しげに言って、自分が食べていた爪の殻を砂浜に投げる。しばらく待ったが何も起きなかった。
「ほら・・やっぱりな。そんなにたくさんいるわけじゃないだろう。」
そう言われて、アランが残念そうな表情を浮かべる。それを聞いていたキラが言う。
「ちゃんと巣の上に落とさないとダメなんだよ。」
「巣?」
アランが訊く。
「ああ・・よく見れば判る。あいつらは砂の上に小さな触覚を伸ばしているんだ。よく見れば判る。細い糸のようなものが出ているんだ。」
キラに言われて、アランもハンクも、プリムもじっと砂の上を見つめる。最初はなかなか見分けられなかったが、目が慣れてくると、確かに砂の上に、白い糸状のものが少しだけ飛び出しているのが判った。
「あれか?」
ハンクはそう言うと、目の前にあった殻をひょいと投げた。上手い具合に白い触角に触れた。とたんに、太くて黒い爪が飛び出してきて、周囲をぐるぐると旋回し、すぐに引っ込んでしまった。
3人は、顔を見合わせ、深く頷いた。
「よし、ハンク、俺と一緒にブクラ取りをしよう。」
アランが立ちあがり、ハンクの腕を取った。
「気を付けろよ!」
プリムが言う。
「ああ・・じゃあな。」
アランとハンクは、ゆっくりと注意深く、周囲を見乍ら、砂浜を進んでいった。

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