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31.畏怖の念 [AC30第1部グランドジオ]

先に、ハンクとアランがコムブロックに入った。
「フィリスクの実を取ってきたぞ!」
わざと大きく聞こえるようにアランが叫ぶ。コムブロックにいた人たちはそれを聞いて二人の許へ集まってきた。
「これが今年最後の収穫になる。貴重な実だからみんなで分け合って大事にいただこう。」
二人を迎えた年配の男が声を上げる。
その脇を気づかれぬように、キラが入ってくる。そこをキラの父アルスが現れた。
「背中に乗せているのは誰だ?」
アルスの太い声がコムブロックに響く。フィリクスの実に集まっていた人たちも手を止めてキラの方を見る。
「誰か怪我でもしたの?」
キラの母ネキが心配顔でキラのところへやってくる。
人々に気づかれぬよう、シートを掛けて背負ってきたのだが、すぐに剥ぎ取られ、白い手足と赤い髪が露わになる。
「いったい、何者だ!ジオフロントの人間ではないな!」
再びアルスの太い声が響く。
「外から?」「他にも人間がいるの?」「本当に人間なの?」「どういう事?」
周囲を取り囲んでいた人たちが小声でささやき始める。
「病気なの?」
誰かが囁いたのをきっかけに、人々が惧れはじめる。
中には恐ろしさのあまり泣き出すものも出て、コムブロックがパニック状態になり始めていた。そこへ、ガウラが姿を見せた。
「いけない。すぐにホスピタルブロックへ運びましょう。ほら、キラ、急いで。ハンク、アラン、手伝って!」
取り囲む人垣を掻き分けて、キラはフローラをホスピタルブロックへ運んだ。ハンクもアランも一緒にホスピタルブロックへ飛び込んだ。
ホスピタルブロックの外には、一族のほとんどが集まっていた。
「アルス、どういうこと?あれは一体何?」
年配の女性がアルスに詰め寄る。
「いや・・俺にもわからない。どこから連れてきたのか・・いや、そもそも外に人がいるなんて・・・。」
アルスは答えに困っている。
「クライブント様にお尋ねしよう。」
誰かが言う。すぐにビジョンが開かれる。先ほどの年配の女性がビジョンに問いかける。
「クライブント様、あれは人間でしょうか。忌まわしきものではありませんか?」
しばらく沈黙が続いた。皆、クライブント導師の言葉を待っている。
ビジョンの中でクライブント導師は表情を変えずただじっと皆を睨んでいる。
「お答えください、導師様!」
他の女性が尋ねる。
「判らぬ。」
クライブント導師はたった一言、そう言うとビジョンが真っ暗になってしまった。
「どういう事だ!クライブント導師にも判らないとはどういう事だ!」
集まった人々は再び騒ぎ始める。
「判らないものを引き入れるなんて・・どういうつもりだ!」
「すぐに追い出せ!人間の姿をした虫かもしれぬぞ!」
「そう言えば、何だか、手足は真っ白だった。髪の毛も真っ赤だったし・・・」
「きっとそうだ。人間の格好をした虫に違いない!」
「殺せ!すぐに殺せ!そうしないとわれらが食われるぞ!」
ホスピタルブロックの外は、不安に駆られた人々が騒ぎ始めた。もはや尋常な状態とは言えなかった。クライブント導師が何も答えられない事などこれまでになかったからだった。そしてそれは、みんなの不安を一層掻き立てた。

そんな様子を見ていたアランの妹ユウリが、人々の目を盗んで、そっとホスピタルブロックへ入っていった。


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