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6.歓喜の声 [AC30第1部グランドジオ]

4人がコムブロックに到着すると、皆がすぐに集まってきた。すでに、ほとんどの若者たちが戻っていた。
「今日は、海まで行ってきました。」
キラがそう言って、網を広がる。中には、ビラルとブクラがたくさん入っている。
「まあ・・こんなにたくさん!」
そう言って、喜びの声を上げたのは、ユウリだった。
ユウリはアランの妹で、小さい頃から、キラたちと共に過ごし、いわば幼馴染である。キラの妹サラや母ネキたちもやってきた。
「ビラルは熱を通して乾燥させれば、長持ちさせることができるし、美味しいのよね。ブクラもこれだけあれば、みんなも喜ぶでしょう。本当にご苦労様ね。海までは遠いんでしょ?無理しないでよ。」
キラの母、ネキは4人を労った。
「ええ・・でも、大丈夫です。みんなで力を合わせて注意していきます。たくさん獲物がいますから、暫くは、同じ場所で取って来ますよ。・・他の皆は?」
キラはそう言うと周囲を見回した。
コムブロックには、キラたちの様に狩猟から戻った若者たちをあちこちで人々が取り囲んでいる。
「きっと、キラたちが一番たくさん採ってきたはずよ。」
ユウリが自分の事のように喜んでいる。
「別に競争しているわけじゃないんだから・・・。」
キラは少し窘めるように言いながら、周囲の様子を確かめている。
「今日は、誰ひとり、怪我もなく戻ってきたよ。」
キラの様子を見て、そう言ったのは、キラの父アルスだった。
「そうですか・・良かった。」
「まだ、暖かくなったばかりだからな・・・これからもっと気温が上がれば虫も増えるだろうから、気を付けねばならないだろう。お前たちも、海まで行くのは危険なことだ。くれぐれも無理するんじゃないぞ。」
「はい。」
キラたちは、サラやユウリたちと一緒に、取ってきた食材をフードブロックへ運び始めた。
食事はすべてフードブロックで調理される。
調理の作業は、一族全員で分担する。男も女も関係ない。今日集められた食材は、今日の分を除いて長期保存の作業が進められる。フードブロックには、巨大な冷凍乾燥機や冷凍庫などが設えられていて、これまでに集めたものもすべてここに保管されていた。

ジオフロントには巨大なエナジーシステムがあり、地下空間の空調から照明、機器の電力を担っていた。しかし、それ自体は、本来の機能の100分の1ほどの、いわば緊急システムが稼働している状態だった。隕石落下・地殻変動から200年近くは当初の設計通り、ジオフロント全体が稼働できるほどのエナジーを供給できていた。しかし、次第に主力が低下した。この先、どれほど維持できるか判らない状態で、今はライフエリアだけが稼働できていた。

その日は、久しぶりの新鮮な食材で、豊かな食事が並べられた。
「ねえ、キラ。海ってどんなところ?」
ブクラの身を口いっぱい頬張った状態で、ユウリが尋ねる。隣に座ったサラも目を輝かせてキラを見た。
狩猟に出かける者以外は、ほとんど一生、このジオフロントから出ることはなく、まだ幼いユウリやサラたちは興味津々だった。
「どんなところって・・ビジョンで見たことあるだろ?・・白い砂浜がずっと広がっていて、波が打ち寄せていて、静かなところさ。頭の上には青い空が広がっていて、真っ白い雲も浮かんでいる。・・・。」
隣のサラが訊いた。
「怖くないの?」
ほとんどの子どもたちは、外界は恐ろしい所だと教えられて育ってきた。確かに、ウルシンのような凶暴な虫たちがいる外界は恐ろしいところだった。真夏と真冬は、僅かな時間で命を落としてしまう。ジオフロントに居る限り、恐ろしい目に遭う事はなかった。だからこそ、子どもたちが外界に興味を持ち、安易に出て行かないよう、外界は恐ろしい所だと教えられているのだ。

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