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5.水の調達 [AC30第2部カルディアストーン]

アランとPCXがキラの元に戻ると、キラは火を起こしていた。
「無事だったか?」
戻るや否や、アランが言った。
「ああ・・特に何も・・ああ、そうだ。この辺りに水源がなかったから、海へ行ったんだ。そこで、ブクラの爪を取ってきておいた。さあ、今日はこれが夕食だ。」
キラが言った。
「ブクラを獲ったのか?」
「ああ」
キラは事もなげに答える。

キラの家族は、アクア一族といい、ジオフロントで水管理の役割を持っている。
生きていくうえで最も重要な水を確保する役割を代々担ってきた。ライフエリアの中には水を貯蔵する設備はあるが、水脈などない。灼熱の季節の前、集中して降る雨水を、チェンバーの中に貯め、浄水したものをライフエリアまで引いていた。その設備の管理をしているのだった。水が不足する事はなかったが、年によっては、豪雨となって土砂が大量に混じる事がある。水質の点検も重要な仕事だった。

「出発する時、父がこれをくれたんだ。」
手のひらに乗せた小さな装置は、浄水器の類だった。
どれほど汚染された水でもこれを使えば、真水にできる。海水も真水にできる代物だった。
「水を作りに海岸に出たら、ブクラの巣を見つけたんだよ。二つほど獲れば充分だろ?」
火の前には、頭ほどの大きさのブクラの爪が二つ並んでいる。
「久しぶりのまともな食事だな。」
そう言って、アランは火の通ったブクラの爪を取り上げると、むしゃぶりついた。
「アランはどうだった?」
キラも、ブクラの爪を食べながら訊く。
「しばらく飛んでみたが、荒地ばっかりさ。木の実なんてどこにもなかったんだ。」
「食料になりそうな虫もいなかったか?」
「いや・・居たよ。途轍もなくでかい奴が・・だが、とても食えそうな感じはしなかったから、カニオンで吹き飛ばしてやったよ。・・きっと、この近くにもいるかもしれない。」
それを聞いて、PCXが言った。
「アントリアンという虫です。土の中に潜んでいて、近づく獲物を鋭い牙で捕えて食べます。」
PCXは、それ以上は言わなかった。
「草のカモフラージュをしてるんだ。見た目に美味そうじゃなかったしな。」
キラは、その虫に襲われたことは言わなかった。
その夜、アランはなかなか寝付けなかった。今でも、襲われた時の事を思い出すと身が縮む。あれほど怖い思いをしたことはなかった。

翌朝、日の出とともに、気温が急上昇し始めた。灼熱の季節が近づいていた。
「そろそろ、北へ向かおう。」
荷造りをしながらキラが言うと、アランが答える。
「ああ・・そうだな。だが、海岸沿いを戻っても仕方ない。少し、内陸を行こう。緑の森がなければ、食糧もないだろうから・・。」
二人は、そこから真北へ向かう事にした。前方には、煙を吐く火山地帯が聳えている。そこまでの見える範囲すべては深い森だった。
「PCX、目指す方向は君に頼むよ。」
キラはPCXに言った。
「承知しました。・・今のところ、周囲5㎞以内に虫の反応はありません。」
「よし,行こう。」

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