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19.緑の大地 [AC30第2部カルディアストーン]

北西へ針路をとって三日目のことだった。
火山地帯の一番北側、2千メートル級の火山の裾を通過していた。低地とは言え、千メートル程度の高度の場所だった。
山には渓谷がいくつも刻まれ、それが合流を繰り返し、一本の太い川になる。その太い流れは、荒れた大地を削るように蛇行して流れていく。そして、中流からは、豊かな森が広がっている。
天候は良好だった。遥か遠くまで見通せた。
突然、PCXが言った。
「キラ様、生命体の反応です。」
「生命体?」
「はい、虫ではなく、人間と同じ程度の大きさの生命体です。ゆっくり地面を移動しています。」
PCXはゆっくりと空中に静止し、生命体の位置を正確に測定しているようだった。
「あの森の中です。生命体は一つではありません。10体を確認しました。」
PCXが示した森は、キラたちの場所からまだ5Km程度前方だった。背の低い木々が生えている。
「ゆっくりと移動を続けています。・・・人が歩く程度の速度です。」
「よし、近づいてみよう。」
キラは少し高度を上げて、その森に近づいていく。人間と同じ程度の大きさ、10体ほどとなれば、もしかして、人類ではないかと期待が膨らんだ。まだ、灼熱の季節の少し手前の時期、自分たちも地表に出て、食糧の調達をしている時期だった。
近くにジオフロントがあるのではないか、そして、そのジオフロントに人間が暮らしているのではないか。キラは期待を膨らませながら、森を目指す。
「PCX、近くにジオフロントはないか?」
キラは森に近づきながら、PCXに訊いた。
「いいえ、5km圏内には、そういった構造物はありません。」
森に近づくと、少し高度を下げた。何か動く影が見えるのではないかと考えたからだった。しかし、森の木々に遮られ、目視では何も確認できない。
「どうだ?PCX、まだ居るか?」
「はい・・ですが、もうここには2体ほどしか確認できません。」
「消えたのか?」
「いいえ、何か、突然、素早く動いたようです。2体は、その森の中で停止しています。」
森までの距離は200mほどだった。
「PCX、降りてみよう。上空からでは判らない。」
「キラ様、危険です。何者か正体がわかりません。」
「だが、虫ではないんだろう?」
「はい、明らかに虫とは違う生命反応です。ですから、一層危険です。」
PCXはそう言いながらも、さらにセンサーを働かせて、生命体の正体を探ろうとしている。
「私のデータには合致する生命体がありません。危険です。」
PCXの体が黄色く発光している。予想できない危機を察知している様子だった。
「人じゃないのか?」
「いいえ、人間のものと似ていますが、100%一致しないのです。私が先に降りて調べてきます。」
PCXは、赤い光を放ちながら、一気に森へ降りて行った。
キラは上空で待機した。
しばらくすると、森の中からガサガサと音がして、木々に紛れていた小さな虫たちが、一斉に森から飛び出してきた。その後、ギギーッと吠えるような声が森に響いた。
時折、赤く発光しているPCXが木々の間から見える。かなりの速度で森の中を移動しているのが判った。
そのうち、周辺の木々からもギギーっと吠えるような声が響き始め、さらに多くの虫たちが飛び出してくる。次第に、同じような現象が森中に広がっていく。明らかに森の中で、何かの生命体が活発に動いている。それも、パニックを起こしたように騒いでいるのが上空からも判った。
キラは、その様子を上空から見守っている。
しばらくすると、森が静かになった。PCXの赤い光は見えなくなった。

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