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20.生き残った生命体 [AC30第2部カルディアストーン]

しばらく待ってみたが、PCXは戻って来ない。足元に広がる森は静かなままだった。キラはゆっくりとアラミーラで降りて行った。梢を抜けると、森の中はいくつもの光の筋が差し込み、穏やかで静かだった。キラは地面に足を着けた。柔らかな地面だった。キラは、周囲に危険は迫っていないか、注意を払う。
「PCX!どこだ?」
小さな声で呼びかける。PCXはアンドロイドで通常ならキラの囁くような声も聞き分ける。正体不明の生命体に気付かれぬよう、小さな声で再び呼ぶ。
「PCX!」
しかし返答はない。だが、キラは何かの気配を感じていた。キラがゆっくりと森の中を移動すると、その気配も同じ距離を保ったまま移動するようだった。時には樹上から、時には草むらの向こうから、感じられた。一つではない。それはじっとキラの動きを観察しているようだった。
キラは腰に着けたスクロペラムに手を掛けいつでも撃てるように体勢を取る。しかし、キラを取り巻く気配の主からは殺気は感じられない。徐々に、その気配がキラを取り囲んだ。
樹上の気配に目を凝らすと、それは人間ほどの大きさで、手足もあるのが判った。ただ、体毛が長い事と、衣服を着用していない事から、人間ではないと判断できた。キラはそんな生き物を初めて見た。じっと見つめているうちに、その生命体の周りに、同じような格好をした生命体が、集まり始めた。皆、同じように、体毛が長い。
その一つが、PCXを抱えていた。
「PCX!」
キラが声を発すると、樹上に並んだ生命体が、グルルーっと低い唸り声を発した。皆、じっとキラを睨んでいる。
「刺激しないようにしてください!」
抱えられているPCXがようやく反応した。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。彼らは、太古に絶滅したはずの類人猿です。彼らを人間に近い存在と認識してしまったために、抵抗できません。」
「どうすれば良い?」
「判りません。ですが、彼らはむやみに攻撃する気はないようです。しばらく様子を見ましょう。」
そこまで会話をしたところで、最も体の大きなボスのような「猿」が、急に別の樹に飛び移り、あっという間にキラの前から姿を消してしまった。すると、次々に、他の「猿」たちも移動を始めた。キラは彼らを見失わないよう、アラミーラに乗って彼らの後を追った。
「猿」たちは、森のはずれに向かっているようだった。行く先を見ると、深い渓谷が見えた。「猿」たちのねぐらがあるのだろう。キラは、少し上空に上がり、「猿」たちの後を追い続ける。もう、日暮れが迫っていた。
渓谷に入ると「猿」たちは、川の流れに沿って上流を目指した。その先に、小さな洞窟があって、「猿」たちは次々にその中へ入って行った。
キラは、岩陰から中の様子を探る。
夕日が洞窟の中に差し込んでいて、中の様子がはっきりと見える。中には、たくさんの「猿」が身を寄せ合うようにしている。体の大きなボスは洞窟の中の大岩の上に座り、群れを見下ろしているようだった。
PCXを彼らはどう認識しているか判らなかったが、何頭かの「猿」がPCXを突いたり、蹴ったりしている。小さな「猿」も近づいてきて、ころころとボール遊びをするような恰好を見せていた。
PCXは、特に抵抗せず、為すがままにされている。
キラは、岩陰から彼らの様子を見ているうちに、不思議な感覚を覚えていた。
毛むくじゃらでぎこちない動きをしているが、どこか、人間と似ていて、身を寄せ合い、毛づくろいをしている様子などは、親が子を慈しむように見えた。
はるか数百年前の、想像を超えた天変地異の中、「猿」たちの祖先は、厳しい環境に耐え、山中で生き永らえたのだろう。頑強なシェルターに避難した人類の多くが死に絶える中、何も持たない動物がこうやって生き延びたのを目の当たりにして、人間の弱さと動物たちの逞しさを強く感じていた。
そして、ジオフロントで暮らす人々に思いを巡らせた。風前の灯にあるジオフロントにしがみつき、不安に苛まれる人々と、目の前にいる「猿」たちの違いはなんだろうかと考えながら、キラは岩陰で身を潜めていた。
次第に、宵闇が近づいてきた。


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