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21.発見 [AC30第2部カルディアストーン]

「キラ様!」
その声で、キラは目が覚めた。
岩陰でじっと身を潜めているうちに、眠り込んでしまったようだった。
PCXは、「猿」たちの眼を盗んで、巣穴から抜け出してきた。
「無事だったか。」
「はい。あの生命体は、やはり、絶滅したはずの類人猿でした。何とか環境に適応し生き延びたようです。この巣穴は、奥が鍾乳洞になっていて、年間安定した気温を保っているようです。」
「天然のシェルターというわけか・・・それで生き延びられたんだな。」
「はい。それと、彼らは高い知能を持っています。木や石を道具にして、狩猟をしているようです。言葉も少し持っている様子でした。おそらく、これから何千年、いや何万年か後には、人類のようにこの地球を支配するようになるかもしれません。」
PCXは、アンドロイドのはずだが、絶滅したはずの生命体に触れ、何か興奮したような話し方をした。
「そのころには、きっと人類は滅亡しているのだろうね。」
キラは呟くように言う。
「すみません。ただの、科学的な考え方の一つです。・・それに、彼らの食糧になっているものを調べてみたところ、残された骨の形状から、他にも、小さな哺乳類がいるのが判りました。驚くべきことです。地殻変動と気候変動で、高等動物のほとんどが死滅したとされていたのです。しかし、こうして生き延びた種がいるということは、どこかに、人類もきっと生き延びているのではないでしょうか。」
確かに、PCXの言うとおりだった。
実際、ジオフロント以外、オーシャンフロントにも人類がいる。世界中に造られたジオフロントの数を考えれば、きっとどこかに人類が残っている。そう信じたいとキラは思っていた。
その日は、朝まで洞窟の入り口の岩陰で過ごした。
夜明けとともに、「猿」たちが動き始めたのをPCXが気付いて、キラを起こした。
昨日見た、ボスを先頭に、体の大きな猿たちが群れを成して、どこかへ出かけて行く。PCXが言っていた通り、猿たちは、手に様々な形や長さの木の棒を持っていた。
PCXとキラは、「猿」たちに気付かれないよう、少し離れてその群れを追い掛けた。「猿」たちは、昨日出会った森とは別の方角を目指している。その先には、大きな湖があり、深い渓谷からの幾筋もの流れが注いでいる。
「猿」たちは、湖に着くまでは、少し楽しむように枝を飛び移ったり、仲間内でじゃれ合うような場面があったのだが、湖が近づくと、ボスを中心に集まり始め、徐々に緊張しているように感じられた。
突然、ボスが何かを察知して停まった。「猿」たちはじっと身を潜めるように周囲の様子を伺っている。確実に何かが近づいているようだった。
キラは上空からその様子を感じ、遠くに視線を移した。
「猿」たちのいる岸部の湖面が徐々に波が立ち始めた。「猿」たちははっきりと身構え、手にした木の枝を掲げた。
すると、水中から巨大な黒い塊が浮上してきた。それは巨大なカメだった。甲羅の大きさは優に10mを超えており、背中にはいくつもの突起物がある。大人しいとは言い難い形状だった。ゆっくりとカメは岸辺に近づいてくる。そして、終に、大きな頭を持ち上げる。頭部は三角形に尖り、先端には甲羅同様に角のようなものが飛び出している。口には大きな牙も生えている。動きはゆっくりだが威圧感がある。カメは岸に上がると、しばらく、周囲の様子を伺った後、まっすぐに「猿」たちが潜んでいる場所に歩き始めた。一歩一歩、足音が静かな森に響く。カメは明らかに「猿」たちを獲物として狙っているのが判った。カメが近づいてくるのを察知して、ボス猿が唸り声をあげた。潜んでいる猿たちが四方に散っていった。「猿」たちも、このカメを獲物として狙っている。
キラとPCXは、じっと両者の動きを上空から見守っていた。
ボス猿は、ひときわ大きな木の棒を手にしている。そして、カメが森の中に入り、あとわずかにまで迫った時、いきなり飛び上がり、樹上から、カメを威嚇するように胸を叩き、吠えた。そして、カメの頭部に飛び、木の棒で一撃を加えた。カメがゴウーと唸り、ボス猿に牙をむく。それを見て、ボス猿が後ろに跳び、カメを誘導するかのように木の枝を渡る。カメはゴウと吠えながら、ボス猿を追う。どうやら、湖から流れ出している川に沿って、カメを誘導しているようだった。その先には、大きな断崖がある。カメは目の前に立つ木々をなぎ倒しながら前進する。ボス猿はカメに捕まらない距離を保ちながら進んでいった。

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