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22.狩りの結末 [AC30第2部カルディアストーン]

いよいよ断崖の一歩手前までカメを誘導してきた。しかし、カメも何かを察知したようだった。そして、ボス猿を追うのを止めた。それを見て、後を追っていた若い「猿」たちが、後ろからカメを追い立てる。しかし、これは逆効果だった。後ろに表れた猿を気にして、カメが向きを変えようとしたのだ。これでは、ここまで連れてきた意味が無くなる。ボス猿は意を決して、カメの鼻先に立った。そして、強く胸を叩いて威嚇する。
「危ない!」
上空から一部始終を見ていたキラが叫ぶ。
カメは一瞬首を竦めた格好をした後、目の前のボス猿に向かって、大きな口を開いて噛みついた。ボスは身を躱そうと飛び跳ねるが、一瞬遅れた。カメの牙がボス猿の右足を貫いた。辺りに真っ赤な血潮が飛び散る。ボス猿は、右足を貫かれた状態で、カメの口元に宙づりとなっている。
それを見て、若い猿たちは恐れおののき、樹上に身を隠す。
「このままじゃ、ボス猿は死んでしまう!」
キラは、スクロペラムを手にした。
「キラ様、お止めください。自然の摂理です。むやみに手出しをするべきではありません。」
PCXがキラを止める。
「しかし・・・。」
そう言っているうちに、口元に宙づりになったボス猿が目を覚まし、ゆっくりと身を起こす。鋭い牙は右足を貫いたまま。激痛が走っているに違いない。ボスの表情は引き攣っている。それでも、目は爛々と輝き、闘争心は失っていない様子だった。
カメの視界には、ボス猿は入っていないようだった。ボス猿は、カメの鼻穴に手を突っ込んだ。カメは突然の激痛を感じたのか、首を左右に振る。その拍子に、ボス猿の右足は牙から抜けた。その機とばかり、ボス猿は、カメの頭に跨り、両方の眼を握り拳で何度も何度も打ち据え、カメの眼からは血が噴き出してきた。
最後に、カメが強く首を振ると、ボス猿は力尽きたのか、反動で,宙高く舞い、そのまま、高い崖から落ちて行った。
視力を奪われたカメは、興奮して、何度も何度も吠える。そして、ただ、その場を逃げ出すかのように前進して、終には、高い崖から真っ逆さまに落ちて行った。
「狩りは失敗だったのか・・。」
一部始終を見ていたキラが呟いた。
「そうでしょうか?」
PCXが答える。
「ボス猿は命を落とし、カメも谷底に落ちたんだ。失敗だろう。・・」

静かになった森に、若い猿たちが姿を見せ始めた。そして、ボス猿とカメが落ちて行った断崖の底をひとしきり覗き込んでは、一カ所に集まり始めた。そして、その後から,雌猿や幼い猿たちも姿を見せた。洞窟に居たほとんどの猿たちが集まってきたようだった。
しばらく、群れはその場に座り込んだまま、ボス猿を悼んでいる様子が感じられた。それから、一匹の猿が立ち上がり、手振りで何かを伝えているようだった。すると、猿たちは少しずつ、森の中へ散っていった。

「おそらく、あの巨大なカメは、猿たちの天敵だったんでしょう。森の中で、幾度も襲われていたんじゃないでしょうか?それをどうにかしようと、ボス猿が自らの命と引き換えに、退治した。群れのために命を懸けたのでしょう。これで、きっと彼らはこの森でしばらくは安心して暮らすことができるでしょう。」
PCXが解説するように言った。
「そういう事か・・・。」
キラが言うと、PCXが言う。
「いえ、そういうふうに考えれば、あのボス猿も救われるのではないかと考えただけです。本当のところは、彼らに訊いてみないと判りません。」
「いや、きっとそうだ。最後のボス猿の執念は、ただ狩りをするという程度のものじゃなかった。きっとそうだ。」
キラは、涙を流している。
「彼らはきっとこの森で長く生き延び、きっといつか、この地上を支配することになるだろうな。」
キラとPCXは、猿たちの群れを見送って、再び、ジオフロントへの帰路に着いた。

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