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24.帰還 [AC30第2部カルディアストーン]

5時間ほど飛び続けると、見慣れた風景が足元に広がってきた。
海岸へ流れ込む川が見えた。あそこには、グロケンが潜んでいるに違いない。そしてその上流には深い森があり、ウルシンたちが闊歩しているだろう。ほんの数か月前までは、あの森や川に潜む虫たちに怯えながら、食糧を調達し、息を殺して生きていた。
キラは、涙が溢れてきた。
「どうしましたか?」
PCXが訊く。
「いや・・懐かしくて・・・。」
「皆様はきっと喜ばれるでしょうね。」
「ああ」
そう答えたキラの表情は硬かった。
約束通り、カルディアストーンは持ち帰る事が出来た。
これでジオフロントは復活し、きっと、もう虫たちに怯えて暮らすこともなくなるに違いない。明るい未来が待っているはずだ。だが、キラは、アランの死を思うと、手放しでは喜べなかった。
この風景をアランと一緒に見るはずだった。あのジオフロントでの忌まわしい出来事がなければ、キラの隣にアランの姿があるはずだった。そして、二人で誇らしく胸を張って皆に出迎えられることを想像していた。しかし、アランはもうこの世にはいない。
PCXは、キラの表情を見て気遣うように言った。
「アラン様の事は仕方ない事です。キラ様のせいではありません。」
「ああ・・・だが・・・」
「アラン様が命を懸けて、キラ様を守ってくださったからこそ、カルディアストーンを手に入れる事が出来たのです。アラン様はジオフロントの未来のために命を懸けられたのです。」
「ああ・・そうだ・・だが・・避ける事は出来たかもしれない・・・そう思うと・・・。」
「悲しんでも、アラン様はもう戻っては来られません。キラ様は、アラン様の分まで、ジオフロントの未来へ力を尽くすべきでしょう。そうでなければ、この旅は辛いばかりでしょう。」
PCXの言葉に、キラは少し心が軽くなったように感じた。
「しかし・・皆にはどう説明すればいいのか・・・。」
「ありのままに報告しましょう。ジオフロントを発見し、そこで巨大なドラコと戦い、命を落としたのだと。そして、アラン様の活躍があったからこそ、カルディアストーンを手に入れる事が出来たのだと。」
「ああ・・それ以外にないんだが・・・。」
しかし、アランの妹、ユウリは納得できないだろう。父や母を幼くして失い、兄妹仲良く暮らしていた様子を思い出すと、キラの胸は張り裂けそうだった。
あとわずかでジオフロントのチャンバーへの入り口が見えるところまで来た時、キラは、海の方角に違和感を感じた。
「PCX,あそこに見える島のようなものは以前からあったかな?」
キラが指差した先には、さほど大きくはないが確かに島が見える。海から突き出たピラミッドのような形状だった。
「さあ・・・どうでしょう?・・漂流している時は、海上の様子は把握できない状態でしたから。」
「前にブクラを獲りに来た時にはなかったように思うんだが・・・。」
「遥か沖合にある小さな島です。海岸から肉眼では見えなかったのかもしれません。」
徐々に高度を下げ、いよいよジオフロントのチャンバーの扉に辿り着いた。
キラは、扉の前に立って何か違和感を覚え、辺りを見回した。
「どうかしましたか?」
「いや・・何か・・雰囲気が違うような気がして・・。」
「そうですか?」
PCXも周囲を探った。
「虫たちは近くには居ないようです。」
「いや・・そうじゃなくて・・何か辺りの風景が・・少し・・・。」
「しばらく留守だったんですから、仕方ないでしょう。春の間に木々が大きく育ったせいではありませんか?」
「ああ・・そうだな・・。」
「さあ、行きましょう。」

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