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26.襲撃 [AC30第2部カルディアストーン]

「本物のキラという証はあるかい?」
プリムの母はまだ信用していなかった。
「僕の顔をよく見てください。」
キラはそう言ったが、「いいや、あいつらもそう言って入ってきたんだ!もう騙されやしないよ」と取り合わない。
キラは、思案した。そして、胸から下げたペンダントを見せた。
「これは、母様から貰ったものです。見てください。」
そう言って、ペンダントを外すとプリムの母に手渡した。そして、それをキラの母がじっくりと見ると、大粒の涙を零し始めた。
キラは、母たちを連れて、ライフエリアに戻り、コムブロックの一角に座ると、ジオフロントで起きたことを母たちから聞くことにした。
隠れていた女性たちはみな憔悴しきったような表情だった。PCXはフードブロックに行き、暖かい飲み物を作って運んできた。女性たちは、PCXの姿に困惑した表情のまま、差し出された飲み物を震える手で恐る恐る受け取るとゆっくりと飲んだ。ようやく落ち着いたところで、キラの母ネキが悲しそうな表情で少しずつ話し始めた。
「あなたたちが出発して、ひと月ほど経ったころだったの。お前たち二人が戻ってきたんだよ。皆、喜んで迎えたんだ。そして、お前たちは、嬉しそうな表情を浮かべて、外界に、素晴らしい場所を見つけたと言ったんだ。それは、海に浮かぶ島で、恐ろしい虫など居ない安心して暮らせる場所だって。」
ネキの話に、キラは驚いて言った。
「そんな・・・馬鹿な・・・。」
出発してひと月と言えば、ようやく別のジオフロントの近くに達したころだった。遥か5000㎞離れた場所にいた。
「プリムやハンクが、その話を聞いて、それはきっとオーシャンフロントだって言ったんだ。・・そう、フローリアの故郷に違いないってねえ。」
「それで?」
「若者たちはみな、お前たちの話を信じ、すぐに出かけて行った。フローリアも故郷に戻れると喜んでいたよ。禁断のエリアから、アラミーラをたくさん運び出して、皆、すぐに出発したんだ。」
「父さんたちは?」
キラが訊くと、突然、ネキは顔を伏せて泣き始めた。その様子を見て、プリムの母がネキの背を摩りながら話を続けた。
「若者たちと違って、私ら女や年老いたものはアラミーラを操る事などできないから、ここに留まる事にしたんだ。外界に出たこともない者にとって、どれほど恐ろしいかさえ想像できない世界なんだ。プリムたちは私たちを説得したんだがねえ。・・アルスだって、足が悪い。まあ、ここで生まれた者にとって、ここはそれほど住みにくい場所じゃない。だから、ここに留まる事はごく当たり前の事だった。・・だが・・・。」
プリムの母はそこまで話してから、悔しそうな、怒りに満ちた表情に変わった。
「若者たちが出て行って、1週間ほど経った頃だった。・・・いきなり、たくさんの・・あの・・PCXがやってきたんだ。あいつらは、男たちを襲い始めた。容赦なかった。アルスたちは、グラディウスを手に戦ったよ。だが、とても敵いやしない。怪しい光を放って…あっという間に、男たちを殺して、灰にしてしまうんだ。恐ろしくて恐ろしくて・・・私らはすぐにライフツリーに逃げたんだ。そして、あの通路に身を隠したんだ。」
それを聞いて、PCXが言った。
「そんなはずは・・私たちは人間を傷つける事が出来ないようプログラムされているのです。」
それを聞いて、顔を伏せていたキラの母ネキが叫ぶように言った。
「目の前で見たんだよ。アルスはお前の仲間に殺されたんだ!お前だって、きっと私たちを殺すにちがいない!」
ネキは再び顔を伏せて泣いた。
「もう、ここに残っているものしかいないんだ。きっとプリムたちも殺されているだろう。もう、終わりさ・・。」
プリムの母が吐き出すように言った。
「なんてことだ…せっかく、カルディアストーンを見つけたのに・・・。」
キラは落胆し、肩から背負っていたカバンを投げ捨てた。
沈黙の時間が流れた。
キラは、ネキやプリムの母たちの話を思い返していた。そして、遥か海上に見えたあの小さな島こそがオーシャンフロントに違いないと確信を得た。だが、何故、オーシャンフロントは突然現れ、ジオフロントの若者を連れて行き、従わないものの命を奪ったのか、見当もつかなかった。

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