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15.逸る気持ち [AC30第2部カルディアストーン]

すでに地表には灼熱の季節が訪れていた。
地表への最後のチャンバーに辿り着いた時、外気はすでに60℃を超えていた。
「キラ様、こんな気候の中を行くのは危険です。少し気温が下がる季節まで待ちましょう。」
PCXはキラの身を案じて言った。
「それではまだ三ヶ月以上掛かってしまう。それに、気温が下がり始めれば、すぐにも極寒の季節が来る。それでは辿り着けないだろう。」
「しかし、この気温の中は無理です。1時間も飛んでいられないでしょう。」
「何か、手はないか?」
チャンバーのドアは壊れ、半分ほど開いた状態だった。したがって、チャンバー内は50℃近い気温になっていて、汗が噴き出してくる。ライブスーツはある程度の高温には耐えられるはずだが、ライブスーツから出ている部分は焼けつくような暑さを感じていた。
ドアの隙間から、外の様子が垣間見える。そこには白い雪をかぶった高い山が見える。
「PCX、あの山を越えて行こう。ここは高温だが、高い山には雪がある。・・山岳地帯を飛んでいければ、暑さからは逃れる事が出来るだろう?」
キラはドアの隙間から見える山を指差して言った。
PCXは山の方角から、ジオフロントの位置との経路を計算し始めた。
「この先の地形がどうなっているか判りませんが、確かに、山岳地帯を超えていく事が出来れば、灼熱の暑さからは逃れる事が出来ます。しかし、今度は、寒さとの戦いになります。あの山の頂上付近は雪が積もっていますから、-5℃くらいでしょう。もしその先にもっと高い山が連なっていれば、それではすまないでしょう。危険です。」
「PCX、ジオフロントまでどれくらいの距離なんだ?」
PCXはすぐに答えなかった。
「直線距離で北西方向に5千キロを超えています。時速40㎞で10時間、1日400㎞飛んでも2週間かかります。ですが、山岳地帯では、1日100㎞も飛べないでしょう。2か月はみておかないとダメでしょう。そうなれば、ジオフロントに到着する頃には極寒の季節の最中となります。次の春を待って、北へ進んだ方が確実です。」
PCXは理屈を立てて言った。
「いや・・ダメだ。ライフエリアのエナジーシステムはいつ停止するか判らない。一刻も早く、戻らなければ・・」
キラは再び、半開きのドアから外を眺める。
「PCX,ここから真っ直ぐ上昇しよう。この崖の上2千mほど昇れば、気温も耐えられるほどに下がるだろう。そこから高さを維持すれば行けるだろう。」
PCXは説得を諦めた。
「判りました。では、私が一度上昇してどれほど気温が下がるか、そしてその高さを維持していけるか、試してきます。その上で決めましょう。それまでは、キラ様は下のチャンバーで休んでいてください。」
「判った。」
すぐにPCXは、半開きのドアから出て、一気に上昇をしていった。キラは、下のチャンバーに移って体を休める事にした。
PCXは3千mまで上昇した。ここまで上昇すると、気温は40℃を切るほどまで下がった。しかし、空気が薄く、気流が乱れていて、安定して飛行できるかどうか不安要素が多かった。
「やはり難しい。」
PCXは再び下降し始めた。
すると前方で大きな爆発音が響いた。そして高い崖の上からガラガラと岩が転がり落ちてきた。遥か前方だが、火山の噴火が起きたようだった。それと連動するかのように、足元のジオフロント近くにあった青い湖から、一気にガスが噴き出した。一目で、硫黄ガスと判った。それは、以前に目撃したものとは明らかに規模が違う。生き物が近づかず、草木も生えない地域は白く地面が剥き出しになっていて、それと判るものだが、今回のガスはそのエリアをはるかに超え、周囲の森を飲み込んでいく。
上空から見ていると、生き物たちが危険を察知して、飛べる虫たちは逃げ出しているのが、黒い帯のような形になって見えた。しかし、多くは、有毒なガスに巻き込まれ、次々に落ちていく。そのガスが、次第にジオフロントの入り口辺りに近づいていた。

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